妊娠は、結局してなかった。
ホッとしたのもあるし。
がっかりしたのもある。
どうして、がっかりするんだろう。
出来ていたとしても、彼は喜ばないのにね。
なんて、凹んだりもした。
子供は、今いる3人だけでいいって、思っていたし。
彼にもそう言っていたし。
それでも、出来たかも、と思った時は。
正直に、嬉しかった。
去年にはなかった気持ちだった。
今回は、子供たちにもちゃんと話して、ちゃんと産めるんだ。
そんな、浅はかな嬉しさ。
それを拒否されたから、凹んだりもした。
少し、あれから時間が経って。
今は、冷静に色々と考える事が出来るけど。
彼が「いらない」って言えたのは、凄い事なんだって。
ようやく分かった気がする。
子供たちは三人で充分。
彼がそう言えたのは、本当に子供たちを大好きだと思ってくれているから。
だから、私も変に凹んだりするの、やめた。
でも、こう言う事を考えたりするのが、もう嫌だから。
ピルを飲むことにした。
私の場合、高容量ピルを飲んでいたりしたから。
低容量のピルなら、副作用もないだろうと言うこと。
それに、避妊目的だけじゃなく、月経過多の私には貧血の改善にも繋がったりするらしい。
それに向けて、色々な検査を月曜にする。
先月の終わり。
エッチの最中にゴムが破れた。
違和感に気付いたあいつがすぐに出したので「危なかったね」と言い合った。
最後までは、行ってない。
でも、最後まで行かなくても、妊娠すると言う知識くらい、私だって出産経験者だし、知ってる。
それでも、すっかり忘れてた。
今日は、素晴らしくよいお天気で。
私が休みの日に、こんなよいお天気なんて珍しく。
朝から張り切って布団を干し、洗濯物を干し。
子供達とドライブついでに、デパートなんかも行った。
ダイソーであれこれ見て、会計が終わった後、めまいがして。
慌てて長女がお茶を買いに走ってくれて。
しばらくベンチで座っていたら、よくなって来て。
でも、帰宅したら、凄いだるさと吐き気。
ここ数日、また肺は痛いし、咳は出るし、風邪だな・・・なんて思っていて。
彼にメールで、そんな事を告げたら。
「妊娠じゃないの?」
と。
「先月の終わり、ゴムが破けたじゃん?」
って。
「とにかく、下手に薬を飲まないように」
続けて3通メールが来た。
ドキドキした。
まさか、と言う思いと、でもあの時、と言う思いと。
「大丈夫だよ」
ってメールを返したら。
「そう言えば、りりか、最近生理来てないじゃん」
手帳を見てみたら、先月は10日頃だ。
でも私は、きちんと来る体質じゃないし、余り気にしてなかった。
「出来ていたら、年内には一緒に暮らそう。生まれるのは来年の夏だから、ちょうど子供たちも夏休みだし、東京に帰って出産も出来るよ」
気が早いなぁ。とか思いつつも。
浮かれていたかも。
嬉しかったかも。
なのに、夜の電話で。
「H、出来ていたら嬉しい?」
浮かれて聞いた私に。
当たり前だろーなんて言う答えを期待していた私に。
「正直、困ってる」
と、あいつは言った。
不意打ちを食らった私は、黙り込んでしまった。
「子供は、あの子たちだけで俺はいいと思っているから。だから、困ってる。迷ってる」
私や、あいつが、生まれてきた赤ちゃんも、今いる3人の子供たちも、同じように愛せたとしても。
あいつの親御さんや親戚の人たちは、そうは出来ないかもしれない。
その時に、今いる3人の子供たちが傷つくのが、怖い。
だから、自分たちの子供は、あの3人で充分だと思う。
それでも、妊娠したとしたら産んで欲しいとも思う。
でも・・・って。
ぐるぐる同じ所を回る。
そんなような事を、黙ったままの私に、あいつは淡々と言った。
私の事や、私の子供たちの事を。
第一に考えてくれるあいつは、素晴らしいと思うし。
凄いとも思うし。
感謝もする。
でも。
やっぱり、ショックだった。
「なら、風邪薬飲んだっていいじゃん」
「だからー・・・マジで迷っているんだってば」
「でも、いらないと思うのなら、いいじゃない」
「怒るよ?」
とにかく、咳なんかで仕事が辛いのであれば、医者に行き、妊娠の可能性がある事を告げた上で薬を処方してもらうこと。
そして、明日中に検査をしてみること。
その結果をすぐにメールなり電話なりで、伝えること。
そう約束させられて。
「早く寝なさい?」
と言われて、切った。
眠れるはずなんかなくて。
こうして、パソコンの前にいる。
去年、赤ちゃんがだめになってしまって。
それはきっと、私のせいで。
あいつも充分悲しんで。
私は同じ間違いはしたくないと思い。
子供たちを引き取ってからは、なおさら慎重に避妊をして来た。
だけど、こう言うことになり。
まだ、妊娠したと決まったわけじゃないけれど。
決まったわけじゃないけれど。
「迷っている。困っている」
と言う、あいつの気持ちを聞いてしまった今は。
ショックで、悲しくて、どうしようもない。
さっき、夜の7時過ぎに、電話が来た。
仕事の帰りらしい。
「運転中の電話は、危ないよ?」
「大丈夫、イヤホン使ってるし」
「そか。どした?」
「実は、今日階段から落ちて怪我しちゃって」
「えぇ!?大丈夫なの?どこを、どうしちゃったの?」
「いや、そんな大騒ぎすることじゃないんだけど(笑)右の肘を捻挫と・・・」
「何?」
「ごめん、指輪、だめになっちゃうかも」
去年クリスマスに、お揃いで買った指輪。
階段から落ちたときに、右肘と左手でついたらしく、その時にどうやってなったのかは、彼も謎らしいけど、指輪が変形したらしい。
「戻りそうだけどね」
「いろいろやってみたんだよ、トンカチで叩いたり(笑)」
「だめだったんだ?」
「まず抜けない」
「抜けない??で、トンカチ?」
「自分の指を叩かないようにしながら、指輪だけ叩いたりしたんだけど。だめなんだよ。もう指に食い込んじゃっているし、切らなきゃいけないかも」
「それは、仕方ないよ」
「だから、ごめんなさい」
彼は、ここ最近の言い合いの事なんかで、罰が当たったと言う。
だから、指輪を切らなきゃいけない位に、歪んでしまったんだと。
「でも、もしかしたら、りりかの離れたく無いって言う意思表示を指輪がしてて、それで変形してまでも外れないのかも」
「罰でも、意思表示でも無いよ。不慮の事故だよ」
「違う。何か意味があるんだと思う」
「考えすぎだよ」
「いや。だから、やっぱり。ごめんなさい。許してください。俺は男なんだから、あなたを守らなきゃならないのに、自分に余裕が無いからって、当たってしまったり、本当に、本当にすみませんでした」
「・・・」
「黙らないでよ・・・ごめんなさいってば」
「うん、いや、そうじゃなくて。別にHだけが悪いわけじゃないし」
ずっと、引っかかっていて。
謝らなきゃならないのは、私だって思っていて。
思っていて。
なのに。
また、あいつから謝らせて。
あいつは、謝ってすっきりしたら、途端に肘の痛みがなくなった、なんて笑う。
こんなに、あなたを思ってくれる人は、どこ探したっていないよ。
いろいろな人に言われた言葉。
何回も聞いた言葉。
私が一番分かっているくせにね。
子供達とジブリ美術館へ行って来た。
私も子供たちも初めてで、一緒に行った妹だけが二回目。
妹は彼が来れなかったので、チケットが浮いたから急遽参加。
台風一過とはならず、小雨が降ったり止んだりの、寒い一日。
それでも子供たちは楽しそうに見て回ってくれてたから、良かった。
井の頭公園の隣でした。
てか、私吉祥寺が地元なのに、初ジブリって・・・。
小学生の頃「ちょっと遊びに行ってくるー」って50円(動物園の入園料)持ってここによく来たな。
彼に。
「もう、やめよう」
を、言った。
「私たち、もうだめだよ」
って、言った。
彼は、慌てて。
「何でだよー」
とか笑って言ってたけど。
でも、きっと彼は分かってる。
私が、冗談とかでそう言う事を言わないって。
日記を書かない間。
毎日が忙しかった。
家に帰ってきてパソコンなんか、出来る状況じゃなかった。
残業して帰って、家事や翌日の子供たちの学校の用意や。
気付いたらもう日付も変わっちゃう。
明日も朝早起きなんだから、寝なきゃ。
そんな毎日の繰り返し。
彼はもう1ヵ月半近く、休みがない。
だから、精神的にも肉体的にも、余裕が無い。
一緒に行こうね、と約束して買っておいたジブリのチケットも、結局彼は行けずじまい。
お互いに、とても疲れていたから。
相手の事を考えられる余裕がなかったから。
ここのところ、毎日の電話では、傷付けるような発言ばかりを、お互いに繰り返した。
お互いに、分かっている。
これは言ってはいけないって事。
そう言う事も、出てしまうくらい。
私たちには、余裕が無さ過ぎた。
あいつは、私の仕事の事を罵倒し。
私は、あいつの考えの甘さを非難した。
お互いに、これ以上は言ってはいけないと言う範疇を超えて。
頭を冷やそう。
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