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そんなものが過去というやつの姿ならば、いったいどんな刀だったら斬れるのだろうねえ。妖しい太刀筋を誇る剣豪すらも手を焼くという。 ましてや、有象無象の馬鹿どもが振るうなまくら刀は尚更のこと。一生かかって、どうだろうね、見覚えのある女を二、三人、夢の中で斬ったり抱いたりまた斬ったりしてるうちに、まあぐるぐると同じところを廻るんだろうよ。 粋じゃねえよなあ。 埋めたのに這い出てくるもの。絡みつく樹木の根のようなもの。生きていると呼ぶには儚すぎる、死んだというにはしぶとすぎる。前を向く瞳とうらはらにこの後ろ髪を掴みに来る。振り返りざまにはっと消える。それが過去というやつの姿だとよ。いつも忘れた頃に誰かが言いだす。切ないよなあ。お前を斬ってもなんだか腕に自信がなくなっていくばかりだよ。カコという奴よ。 「お前、忘れられない過去ってあるか」と、何気ない会話の一言が、魔界と現世を繋ぐ扉をぐっと押し開けてしまう。そこからは胸を黒い炎で焼くような、胸中思慕百鬼夜行の始まりだ。さあ、お立会い、お立会い。どんな些細な眼差しも、どんな刹那のすれ違いも、まるでたった今そこで起きている出来事であるかのように、まざまざと現われてくる。ここが過去のすさまじいところ。斬っても埋めても消えはしない。滅びてもまた残った部分同士で補強しあってこの世の「今」へ向かって押し寄せてくるのだ。 まるで定刻通りに現れた刑の執行人とか、運命の花嫁のように。カコという奴の横顔とか身なりはぞっとするぐらいきちんとしていて、美しく端正なのだ。きっとさまざまな像とか形態とかが組み合わさって成り立っているせいだ。過去そのものが本当に美しかったことはなく、現在進行形で生きている渦中にはもっといびつで生々しいはずだ。 それでカコという奴が百鬼夜行で押し寄せてくるから、と言っても、ここが個人のエゴとかプライドの所業だと思うが、なかなか「百鬼」にならないのです。ウシとかウマとか、まあ良くてヒツジなど、せいぜい七、八鬼ぐらいで数え止まる。カエル、ヘビ、エビ、カニ、ゾウリムシ、神、仏、強盗、鬼嫁、マルチ商法、癌細胞、大阪府警、美輪明宏、こういったさまざまな現世の「鬼」的なものになぜ転化されずにワンパターンな現れ方なのか、というところに、私自身の限界を感じるので、今日はこのあたりで歯を磨いて寝ます。 粋じゃねえよなあ。野暮ですらない。 |
writer*マー | |
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