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Keep yourself alive  2003年05月27日(火)
『操作される生命』 林 真理(はやし まこと)
(2002年 NTT出版)


●現代の生命テクノロジーと社会の関係について、「問題の構造の分析」を主眼とする。技術が進展することは決して止められず、社会との関係には常に問題;特に倫理的問題が生じる。


生命テクノロジーとして挙げられた事例は3点、
1.脳死移植
2.補助生殖(不妊医療・体外受精)
3.ヒトクローン


テクノロジーが発展し姿を変えることによっても、社会のあり方によっても、テクノロジーに関する解釈の仕方によっても、発生する「問題」は姿を変える。


「問題」は構造として作られている。誰かがあるコード、立場で論じることで基盤ができ、我々に伝えられる。


本書は「問題構造」として3つの段階を挙げる。


1.テクノロジー実現可能性の示唆(技術問題を社会的問題へ「移転」)
2.テクノロジー有用性&問題性の評価(「意味付与」)
3.テクノロジー実現の為の環境整備(「解決」)



倫理とは。。




エンゲージカフェイン  2003年05月09日(金)
03.03.28(fri)
ユウキドラッグ729

●「コーヒーなんて要らないわ、お金を返して!!!」

○「ヨシ子、なあ、そんなに怒らず聞いてくれよ、違うんだ」


●「何が違うって言うの? 酷すぎるわ、あなたは騙されてるのよ、おかしいのよ、お願いだから目を覚まして。何がコーヒーよ!? そんなもの自販機でも売ってるじゃない! いっくらでも!!!」

○「ヨシ子違うんだ、僕は二人の将来のことを考えてだな、先行投資っていうやつだよ、資産運営なんだ、解るだろヨシ子、そうだ、コーヒー豆の話をしてやろう」


●「ああっ。気が狂いそうだわ。無茶苦茶を言わないで。あなたは私のことなんて全く何も考えちゃいないわ、あなたは自分のことにしか興味が無いのよ、何がコーヒー豆よ、そんなもの近所のスーパーで売ってるじゃない!」


○「ヨシ子泣くな、そうじゃない、そうじゃないんだ、二人のためだし、男たるもの、やっぱり一人で一から事業立ち上げてやっていけなきゃ、ダメだと思うんだ。それにスーパーハチイで売ってるコーヒー豆なんて本物じゃないよ。僕が手掛けたいのは正しく本物の豆を生み出すことなんだ、おいしいよ」


●「だからって何も・・・私達の結婚資金から結納金から親の貯金まで全部、全部使ってまで、ブラジルにコーヒー農園買うことないじゃない! あなたは鬼よ、悪魔だわ!! あああ」


○「ヨシ子、あまり大きい声を出すな、お腹の赤ちゃんに障るよ。僕達は幸せにならなきゃいけないんだ」


●「そうよ私のお腹には赤ちゃんがいるのよ、それなのにあなたは、両方の両親からお金を無心して、取れるだけ取って、ブラジルにコーヒー農園なんてものを買ったのよ、悪魔だわ、もう破滅よ!!!」


○「ヨシ子、落ち着いて聞いてくれ、僕はコーヒー農園が必ず未来の資産になると確実にそう思うんだ、先物取引や経済やプラント関係のプロフェッショナルが、こいつは5年間アメリカの有名な大学でそういうことを勉強したまさにプロのプロだけど、そういう奴もちゃんと太鼓判を押してくれてるんだ」


●「なら自分で働いて自分で貯めたお金でやりなさいよ。私の両親にまで手を出して上手く言いくるめて、家も土地も田舎の畑や田んぼまで全部売らせて、農耕具も母の反物も、真珠も全部、お金になりそうな物は全部、お金に換えるなんて・・・あなたは詐欺師だわ、悪魔よ」


○「ヨシ子見てくれよ、これなんだ、これが僕の買ったコーヒー豆だ。見えるかい? 新しい豆なんだ。見えるだろ? この艶、ふくよかさ。香り高い本物の豆なんだ」

 「名前は"マサイマン"と言って、何でもアフリカ大陸の、苦難の暗黒の歴史の中で生み出された、穀物最大の救世主のようなものなんだ。当時、このマサイマンの栄養素で命拾いした黒人奴隷が何万人といたんだよ」


●「お金を返して! 家を返してよ! お母さんの大切な着物も、お父さんの新型トラクターも返して! お姉ちゃんのエルメスとヴィトンも返して! 私の車と貯金全部返してよ、ねえ!!!」


○「ヨシ子、ほら、この豆なんて、ふくらみといいシワといい、なんだか黒人奴隷の顔に似てないかい? まるで苦しみながら労役させられてるみたいじゃない」


●「コーヒー農園なんて売ってやるわ、あなたが一秒でも寝たらすぐに電話回してそんな土地、引き取ってもらうから。売ってやるわ、あなたが今までそうしてきたように、そして私はあなたから全てをまた取り返してやるわ」


○「ヨシ子どうしてなんだ、僕は君を、愛してるのに」

●「あなたは自分の野心にしか興味が無いのよ。誰のことも愛してないわ。あなたはコーヒーすら愛してない。コーヒーだろうがカカオだろうが、それこそ、モチ米だろうが大根だろうが、口実さえあれば何だって良かったのよ、アホよ、アホだわ!」

○「あっ、ヨシ子なにするんだ、何処に電話を掛ける気なんだ」

●「知り合いに法律の先生がいるわ、あなたのブラジル農園を買い取ってもらえる方法とか色々相談して、あなたが私達にそうしたように、私もあなたから全てを奪い返してやるわ、スーパーハチイで買ったって、あなたがブラジルで作ったって、コーヒー豆なんて全部一緒よ。あなたの土地は売ってやるわ、覚悟なさい」


○「そりゃあ無意味だよ、だって僕の買った土地はアマゾン川にも遥か数百キロ離れた、焼畑農業に失敗した貧弱土壌の乾燥地帯だもの、買い手なんて付かないよ絶対。コーヒーどころかペンペン草も生えないよ」


●「どうしてそんな土地を買ったのよォオオオオオオオオ」

○「ヨシ子、ヨシ子おおお、僕は、僕は3千5百万円を騙された」

●「ブラジルに土地なんかあったって遊びにも行けないじゃないいいいい」

○「しかも市街地から飛行機で半日掛かるけど、地図に載ってないんだ」

●「何が農園よ、ただの僻地じゃないいいい」

○「よ、ヨシ子ぉおおお、うううおおおあああ、死のう、死のう、」

●「あああ」

○「ふおおお」

―――――――――――――――――二人の運命は、いかに。

ユウキドラッグ729.




皇帝陛下食卓詩  2003年05月08日(木)
03.03.27(thu)
ユウキドラッグ729

皇帝陛下マティウスの朝食に関する記述。


皇帝陛下は黄金色の胸当て・リストガード・首当てを身につけ、毎日午前7時半から朝食を取ることを日課としている。


皇帝陛下は謎につつまれた出生、経歴の持ち主であり、玉座の裏や足元には虚数暗黒空間が広がっているとも言われ、その実年齢は不明であるが、陛下は卵料理がお好みだ。

陛下は愛刀を携え食事室へ向かう。陛下は煌びやかな装飾がぞろぞろ並べ立てられるのを好まぬ、質素な性格で、親衛隊のものを3名だけ連れて、城内を動く。


皇帝親衛隊は、屋敷の中だというのに、馬に乗って赤茶色の無骨な甲冑を着込み、スピアを手に、陛下に同行する。陛下は闇に親しみ過ぎた人間であり、既に人間らしい日常会話言語を大幅に失いつつあると思われる。親衛隊は一言も喋らない。


静かな朝食が始まる。陛下はスクランブルエッグを召される。幼児の頭ほどある青銅の茶碗に山盛りになった、黄色いそれを黙々と口に運ぶ。


マティウス陛下の様子をじっと見守る、老年執事のケンチブス氏は、日常言語を喪失してゆく陛下の微細な表情や態度を読み取って他の者に通訳する、大切な役目を担っている。

陛下は時に「たう、たうう」とか「ガッグウガガッッ」などという、不可思議な発声によって意思を伝達しようとする。これは執事歴10年目のケンチブス氏でなくては解読が務まらない代物であり、着任歴の浅い衛兵などは、うろたえて失禁することもあるのだ。ジャジャー。


陛下はたまご酒をジョッキで3杯ほど飲んだ。今日はご機嫌がすこぶる良いらしく、「だだあ、ダドアー」等と陽気に笑い、冗談を飛ばされるなど、微笑ましい光景に恵まれる食卓となった。お替わりはいかがですかとケンチブス執事が人の良い笑顔で尋ねると、陛下は蚊の泣くようなか細い声で、「ノウ、オナカ、いっ ぱいなり」、と答えた。


陛下の下にデザートが運ばれた。上品な輪島塗を思わせるダークガラスの椀に、とてつもなく鮮度の優れた生卵が一つ、浮かんでいる。椀は内側までも暗く、漆黒の闇に浮かんだ黄色い球体は、その柔らかさ、所在無さげな様子を、引き立たせる。マティウス陛下の最も愛するメニューの一つである。


陛下は、古代中国の皇帝が上等な金魚をそうしたように、器の中に揺らめく黄身を愛しそうに見詰め、ひとしきり愛でた後、舌先や前歯を使ってそれを弄ぶ。柔らかな球体を口に含んではブッと出し、また口に含んで頬の中で転がす、というようなお戯れを十分ほど繰り返した後、陛下は半ば崩れかかった黄身を飲み込んだ。


マティウス陛下の一日が始まる。帝国の民人や仕官者らは、この世の動乱、不穏な戦争騒ぎを既に感じ取っている。戦地を色濃く覆っていると言われる、超微粒子の砂嵐の気配が、既にこの帝国にも訪れ始めていた。マティウス陛下はシャンデリアに向かって一掴みのキャビアを投げ付け、傍に居た衛兵は、後掃除が大変だった。





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