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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年08月26日(月)
転校生。

 その日やって来た転校生は――謎に満ちていた。
「なぁ。カンペキ顔半分隠れてるけど、邪魔じゃねぇか?
 その前髪」
「え? ええええええ、えーと、そんなことはないよ、うん」
「というか、俺は、同じく前髪に埋もれてしまってるメガネの方が気になるが」
「ああ気にしなくていいよ。大丈夫だよ全然平気だから、うん」

 ――気にするだろ普通。

 昼休みの屋上。
 ツッコミを入れたい気持ちをグッとこらえ・・・ているのは佐藤だけで、鈴木は「個性の違いだな」という一言で全てを終わらせてしまう。
「おおらかなんだね鈴木君は」
 感動したように呟く小林と言う転校生は、感極まったようにメガネを外し、ポケットからハンカチを取り出してそのまま前髪に手を突っ込み・・・もとい、取り出したハンカチで目元を押さえている。
 蛍光ピンクの地に緑の提灯が乱舞するハンカチだった。

 完全に季節を外してやってきた彼は、当然のごとく転校してきた理由を問われ、失神しそうな表情でしばらく絶句したあげく
「一身上の都合です」
 と、消え入りそうに細い声で答えたことから、朝一から一躍「時の人」となっていた。
 他にも、池の鯉に向かって涙ながらに土下座をして謝っていただの、何回生だかの卒業記念の銅像――なんのへんてつもないグ○コの像もどきである――を目にするなり、絹を裂くような悲鳴を上げてぶっ倒れただの、二年以上前から放置されているらしき古い雨傘を抱き、げた箱に向かって30分にわたりガンくれていただの・・・目撃証言は半日だけで両の手に余るほどであった。
 『謎』の転校生である。
 こんなクラスもういやだ、と遠い目をして呟いていた委員長の高橋女史を思い出しつつ、佐藤はなにげなく件の転校生に目をやった。
 その時である。

 ゴオッ!!

「わわわっ?!」
 時ならぬ突風が彼らの髪を攫い、乱した。
 勿論、転校生の謎のヴェール(前髪)も一緒に――。

 ぴきっ。

「び、びびびびっくりした・・・」
 慌てて髪を押さえる小林。
 ぱぱぱっと前髪を整え、外したままだったメガネもかけ直す。
「あ、あれ?あれあれ?」
 自分の顔を見つめたままの鈴木と、それプラス凍りついたままの佐藤とを見比べ口元を手で覆った。
「もしかして・・・?!」
「お前それ――」
「あの鈴木君佐藤君・・・」
 なにかを言いさした鈴木を遮り、小林は二人の顔を見比べながら縋るような細い声で言った。

「今見たこと・・・誰にも言わないでくれるかな、もし誰かに話したら・・・
  呪うからね
 懇切丁寧にじっくりとっくり時間をかけて念入りに」

 そうして、きゃっ恥かしい、と顔を覆う小林。
「わかった言わない。小林は恥かしがり屋なんだな」
「うん・・・人見知りも激しいんだ」
「そうか、それは大変だな」

 ほのぼのとした友情空気を醸し出す二人の会話を遠く聞きつつ、佐藤は『呪い』と『人見知り』の関係についてしばし熟考したのであった。