散歩主義

2007年08月30日(木) 降臨と思いつき

お昼ご飯を食べながら、「笑っていいとも」を見ていました。
テレフォンのゲストは加藤和彦氏。
ミカバンドよりも、ソロアルバムが好きでした。
今でも時折聴いています。

スタイリッシュな加藤氏のこと。
まだ大学生の頃だったかな、たまたま読んだ音楽雑誌に、とてつもない空腹時にもしポケットに数百円しかなかったらなにを食べるか、というテーマでコラムで書いておられて、どんなに小さくてもそのお金で買える一番おいしいケーキを買う、というのが加藤氏の答え。
そのことをいまだに覚えていて、そのエピソードが加藤氏の本質を言い当てているようにいまだに思っています。

さて番組では最近、楽曲の制作に忙しい、との発言からタモリ氏と新しいものをひねり出す話を短く。
昔はコピーから入っていけたけれど、今は全然違う、と。

で、楽曲のアイデアなりメロディーについては、やっぱり降臨するのを待つ、と。
そのことは文学でもよくいうことだけれど、
「だけど思いつきはダメだね」とさらり。

加藤氏は一時、歩いていたり、日常の何かの拍子に音楽がはっと閃くから、携帯しているレコーダーに保存していたことがあるとのこと。
だけどあとで聴くと全然ダメ。だからそれは止めたそうなのだけれど、その文脈から「思いつきはダメだ」という言葉がでてきたのです。

その言葉を引き継いで、さらにいろいろと音を重ねたりいじったりしている内に何かが現れてくる。「つまり降臨するんですよね」という言葉が呟くようにでてきていました。

案外、思いつきと降臨は同じように考えがちなのだけれど、それは違うようにおもいます。
現代詩の作法で言えば吉岡実さんがエッセイで語っておられました。
ふっと浮かんだ言葉は全部捨てる、と。それでもしぶとく残る言葉があればそこではじめてその言葉に向き合う、と。

小説の作法で言えば吉行淳之介さんが、自分の中の抒情詩人を扼殺する、と。それでもなお表出してくるものを表現として掬い上げるという意味のことを書いておられた。

大きなテーマ。たぶんそれは生き方であって、そこから言葉や音に向き合い、出してみて、それを削ったり加工したりしているうちに、
「降りてくる」。
それがなにか。たぶん分からないし、語れないこと。

いちど表してみること。そこからしか始まらない。
自己を消してみること。それは幻なのかもしれないから。
そんなことを考えていたら「格闘」という言葉が浮かんできました。


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