マイルス・デイヴィスの「スケッチ・オブ・スペイン」をさっきからずっと聴いています。 伊藤君子さんの「フォロー・ミー」が映画「イノセント」の主題歌になっていることを知ってから、伊藤ヴァージョンとは別にマイルスのヴァージョンを聴いています。
つまり両方ともモチーフは同じ。20世紀のスペインを代表する作曲家ホアン・ロドリーゴの作品、「アランフェス協奏曲」の第2楽章(アダージョ)なのです。 有名な曲です。
伊藤さんの「アランフェス」はスティーブ・ガッドのアドバイスもあってのアレンジ。一方のマイルスは天才アレンジャー、ギル・エヴァンスと組んでの作品。 比べることは位相が違うのでできませんけれど、哀切きわまりない情感をそれぞれが見事に表現しているということです。
ジャズではマイルスのほかにギタリストのジム・ホールの有名な「アランフェス」があります。日本では村治佳織さんのギターが最近では有名ですね。
アランフェスというのはマドリードにある町の名前で、かつてスペイン国王の離宮のあった場所。ロドリーゴはここを散策していて曲を発想したといいます。 第3楽章まであるうち、この切なく哀しいメロディーの第2楽章から作り上げていったと。
「イノセント」のサイトでは伊藤さんのインタヴューも聴けますが、掘り下げ方がさすがです。 日本語になおすとこんな感じです。
輝く海を渡って こちらの世界へ ついてきなさい わたしたちが知っている世界の彼岸が 待っています 夢見ていた世界が 思い描いていた喜びが 彼方に
ただ愛だけがわかる狂気にしたがって ついてきなさい 歓びの夜たちの絶頂を登りつめ 荒廃したすべての時間と涙を超えて 光へ、光へと はいってきなさい
高く、そして遠い世界へ ついてきなさい そこでは我等の内なる旋律のすべてが 空に満ちているのです
ああ輝く沈黙よ 常軌を失えた心こそ自由! 世界が変転を繰り返すうちに 変転し 変転し 落ちていくうちに
意訳はぼくがしてみました。 …怖い曲ですね。
で、さっきから聴いているマイルス=ギルのヴァージョンは切なさとともに闇が見えてきます。黒いのです。ギラリと輝いたり熱風のようにうねったり、乾ききった大地のように、ひそやかな夜の舞踏のように。 サウンドの万華鏡です。
伊藤さんの歌う英語詩はむしろロドリーゴのほうに深く寄り添っている気がしますね。 荒廃した帝国の残像…。 愛だけがわかる狂気… 訳していて背筋がゾクリとしました。
もう少し奥まで進んでみます。 帰り道を確保しながら…。
|