夜になっても妙に暖かい。 コンビニの灯りに背中を光らせてミニサイクルで走っていく子供はTシャツ姿だ。 まるで夏の終わりのような、24時間カフェのパーキングに、改造ワンボックスがぎらついて停まっている。
夜空には斜めにぼんやりと白い雲の帯が走り、そこから闇のなかに溶け出している。たぶん雨だ。 夜中に降るだろう。
北西の方を仰いで見ると、もうそこには黒くうずくまった寒気の頭が見えそうだ。 ハーレーの1300が駆けていく。ヤマハの、カワサキのバイクがいく。みんなアメリカンスタイル。ジーンズの上にチェックのシャツを羽織っただけで、光る胸で夜を切っていく。 雷まで、たぶんあと2時間。みんなどこまで走るのだろう。
昔、ミッドナイト・スペシャルという真っ黒なバイクがあった。いたってノーマルなバイク。だけどパワーは強烈。シェイプされた身体じゃないと似合わない。 それを操る女の子がいたんだ。いつもハンドルに赤いバンダナを巻いていて、黒い革のツナギを着てた。
ぼくは19歳のころサパークラブでバイトをしていた。ソウルも大好きだったしね。友達に誘われて。けっこうヨコハマから有名な人もきて演奏してた店。 あるとき、沖縄のバンドが来ていてね。ドラムの子の彼女も沖縄から京都に来ていたんだ。その子はバンドが沖縄に帰っても京都に残ってた。この街が気に入ったんだね。 気が強くて、あまり水商売にあわないみたいだねっていってたら、トラックの運転手になった。そのほうがあってるっていってね。沖縄で走ってたんだって。免許、持ってるんだもの驚いた。実はそれでドラマーを食わしてやっていたんだ。
その子の横にのって福井県の武生まで糸を運んだことがある。糸といっても一つ1トンはある塊だ。それを4つ載せて、琵琶湖の横を北上した。しばらく走ってると前の10トンが蛇行運転するんだ。居眠りかいって聞いたら、違う。ああやって後ろを確認しているんだって。大きいトラックはミラーだけじゃわからないんだ、と。 一回だけ手伝ったのかな、その仕事。
しばらくしてロードレーサーで北大路を走ってたら、真横にミッドナイトスペシャルがすーっと近づいてきたんだ。 黒い革のつなぎ、黒のフルフェイス、黒のグローブ。フルフェイスにもシールが貼ってあったけれど、そのメットから出ていた髪が彼女だった。 あ、と思ったらシールドを少し上げてにこっと笑った。口だけが見えた。そして指を二本立てて敬礼すると風より速く消えていった。
赤いバンダナをハンドルに巻いたミッドナイト・スペシャル。 あれから一度もあってない。
トラックに揺られた夜も京都は生暖かだったけど、琵琶湖の北の峠の上では土砂降りだった。 西大路をバイクが北へ走っていく。 雷まであと少し。
鉄の馬たち。今日はもう脚を休めた方がいいよ。
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