斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
β版
目次 | <<前へ| 次へ>>
2005年03月02日(水) |
デジタル家電の価格破壊にはサプライチェーンの効率化でしか乗り切れない |
デジタル家電の価格下落が激しい。 商品ライフサイクルもどんどんと短くなっている。
それに対し、現状の家電業界がめざしているのは「垂直統合」もしくは「水平統合」である。
家電業界は、「垂直統合」モデルとして、コア部品からサービス、製品までをカバーし、ユーザーを自社に囲い込もうとしている。 特定のDRMでプロテクトされ、特定のメーカーの製品でしか再生できない音声コーデックとか、特定メーカー製品だけで統一すれば、きちんと統合管理できるネット家電とか。 そして、PC陣営の排除。 PCに繋がった時点で、僕らはプロテクトなんぞ知ったことではないので、家電メーカーはいかにしてネット家電をPCに繋げないようにするか、という無駄な努力を続けている。 イーサネットのポートをつけてしまった時点で、僕らPCユーザーの勝ちだ。 垂直統合はPC陣営がぶちこわす。
「水平統合」はコア部品をブラックボックス化して、そこで覇権を握り、デファクトスタンダードの地位を気づいたうえで、収益を確保する、という戦略。 だが、家電メーカーは、コア部品を自社製品の差別化にも使いたいとも考えるので、結果的には、デファクトには至らない。 ソニー製品だけの家、とか松下製品だけの家、みたいな世界は永久に来ない。 最終製品の差別化をあきらめ、コア部品の外販に出た場合、今度は標準化の方向に向かうが、そのコア部品によほどの付加価値がない限り、結果的にはコモディティー部品となってしまう。
僕は、垂直統合も水平統合も成立しないと思う。
いわゆるアナーキズムの世界。 カオス。
特定企業が覇権を握り、垂直、水平ともに一人勝ちになるような状況は想像しがたい。 数年後のデジタル家電業界は、リーダー不在の混沌としたマーケットが出現するのではないか、と思う。 日本製品だけではなく、台湾や韓国、中国企業、そして、ホワイトボックス家電も登場するだろう。
「デジタルコンサバージェンス時代の勝者は、ユーザーであり、大企業ではない。」
その世界では、メーカーは単なる組み立て屋でしかない。
組み立て屋に成り下がる時代は、もうすぐである。 と、いうよりも、既に現時点でも何の付加価値もない「組み立て屋」である。
そこでの勝負は、サプライチェーンの徹底的な改革ではないか、と思う。 大メーカーは「水平統合」にも「垂直統合」にも失敗するだろう。 それならば、組み立て屋としての力を強くすることに注力すべきである。
商品ライフサイクルはどんどんと短くなっている。 今やデジタル家電の商品寿命など、3ヶ月に過ぎない。 3ヶ月もたつと、新製品は旧製品となり、在庫処分の対象となる。 新商品の投入時には、豊富な在庫を用意し、垂直立ち上げが重要となる。 そして、投入した新商品は、発売と同時に一気に売り切ってしまわないと、あっという間に在庫処分の対象となってしまう。 在庫は積み上がるし、在庫処分品として販売価格が急激な下落を見せれば、ブランドに対するダメージも大きい。
ソニーを例に取ってみる。
PSXとPSP。
ソニーのDVD/HDDレコーダーであるPSXの旧モデルの在庫処分価格は、3万円台にまで下落した。 PSXの在庫調整に失敗したわけである。 PSXは予想外に売れず、在庫が積み上がった。 DVD/HDDレコーダーは、激戦市場である。 ハイテンポで新製品を投入し続けなくては、他社との競争に負けてしまう。 新モデルを投入するためには、在庫処分を行わなくてはならない。 だが、在庫を処分するためには、極端な値下げが必要となってしまった。 結果として、PSXはモデル末期になれば、安く買える、というイメージを消費者に植え付けることとなり、同時にDVD/HDDレコーダー市場の価格破壊を決定的なものとしてしまった。
つぎに携帯ゲーム機のPSP。 PSPではPSXとは逆の現象が起きた。 最も需要が大きいと考えられるクリスマス商戦に、じゅうぶんな量のPSPを投入できなかった。 本来ならば、年末までに最低でも100万台、できれば150万台程度の在庫は必要だったと思われる。 この理由のひとつは、初期需要を読み違えた、という事になる。 本当の理由は、開発が間に合わず、その後に続く製造は更に遅れてしまった、ということだと思うけれど、需要そのものも読み違えていたし、その後の対処も遅かった。 初カテゴリーへの新製品投入であり、在庫リスクを避けたかったのだろうと思われるが、ミスはミスだ。 一体どれだけのお年玉がNintendo DSに流れた事だろう。
日本企業は、原点に立ち戻るべきだと思う。 サプライチェーン改革を古典芸能と侮ることなかれ。 メーカーは今やただの「組み立て屋」である、事をきちんと認識し、サプライチェーンを徹底的に見直すことが、まずは大切なのではないか、と思う。
目次 | <<前へ| 次へ>>
|