斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2003年01月11日(土) |
巨象も踊る(その2) |
(その1からの続き)
ガースナーの行った改革はひとつひとつを見ていけば、全てにおいて大したことではない。 現在の僕が戦略コンサルタントとしてIBMの改革プロジェクトに参画すれば、ガースナーの実行してきた事とほとんど同じ事を提案するだろう。 ガースナーは当たり前のことを当たり前に実行しただけだ。 ガースナーは戦略コンサルタントとしての王道の戦略をそのまま実行したに過ぎない。
ガースナーの偉大さはガチガチに構造が定義され複雑な構造を持つIBMを力づくで変革した実行力だ。 IBMは巨大でかつ複雑な構造をもつ企業体だ。 世界で一番複雑な構造をもつ企業だと思う。 パソコンから汎用機、ソフトウエア、サービス、コンサルティング、アウトソーシング。 一社でコンピュータ関連の事業の全て領域をカバーしている。 無数の事業が複雑に絡み合ってひとつの企業体を構成している。 数多くの事業を持つコングロマリットを持つ企業体は多いが、各事業が全て連携している点でIBMの複雑性は群を抜く。 それゆえに、一刀両断にバサっと戦略を実行することは大変に難しい。 ひとつひとつの課題はそれほど難しいことではないのだけれど、どこかをいじれば全体に影響を及ぼす、という点が難しい。 「部分最適」は簡単なのだけれど、「全体最適」となる戦略を策定し、実行するのは困難だ。
更にガースナーの改革の大きな部分は「企業文化の改革」。 これはコンサルタントにとって最大の難問だ。 ガースナーも最も困難な課題だったと述べている。 企業を変革にするにあたっては「企業文化そのもの」を変えなければ、その企業の変革は終わらない。 個々の改革プログラムなど、対処療法でしかない。 企業文化を改革できてはじめて、改革プログラムは完成する。 企業文化が変わらなければ、一時的な変革を成功させても継続性がないし、定着しない。
でも企業文化の改革の完全な手法なんてものはどこにも存在しない。 コンサルタントはしくみを変える事はできても、人を変える事はできない。 他人が長年に渡って慣れ親しんだ行動様式や文化を変える事はそう簡単ではない。 スローガンやポスターで企業文化が変わるわけではない。 企業文化を変えるためには強制的にしくみから変えるしかない。 ガバナンス、人事制度改革、取締役会の改革、なんてところが中心となるのだけれど、実行は難しい。
日本の企業が立ち直れないのはCEOを筆頭とした経営陣が既得利益、既得権益を守りつつ、改革を行おうとするからだ。 課題のそもそもの原因を取り除くことなく、表面的で影響の少ない課題のみを解決しようとするからだ。 外部のコンサルタントに指摘を受けても、自分のポジションに影響を及ぼすであろう課題には目をそむけ、実行しない。 自己否定することなく、小さな変革だけに終始する。 日本企業が再生するわけがない。
IBMは瀕死の状態だったから手段を選ばず変革を実行した、とも言えるのだけれど、日本企業って瀕死どころか実際は既に死亡しているにもかかわらず、変革できないでいるのはどうしたことだろう。 既得権益を守ろうとしている経営者、取締役をさっさと全員クビにすればいいのに。 ガースナーは何の既得権益をもたない「外様」だったから変革を実行できた。 ガースナーが生え抜きのIBM社員だったら変革の実行はできなかったと思う。
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