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2003年01月10日(金) 巨象も踊る(その1)

正月休みにルイスガースナー著「巨象も踊る」を読んだ。
言うまでもなく「巨象」とはIBMの事だ。
90年代初頭、経営危機とも呼ばれる状況に陥っていたIBMにガースナーはやってきて見事復活させた。

この本は「巨象」であるIBMを復活させていくまでの物語。
一般的に企業本はタイアップの宣伝くさい本か経営者個人の自慢本であるケースがほとんど。
「巨象も踊る」は後者の自慢本系。
ただ、自慢本としては最高峰。
さすがにガースナーは元戦略コンサルタントだけあって、自分の実行してきた戦略を冷静に評価している。

僕はこのガースナーの在籍していたのと同じ90年代をこの巨象の尻尾で過ごした。
この本に書かれている内容は、僕が巨像で過ごした10年間と時期的にほぼ重なる。
元戦略コンサルタントのガースナーと現戦略コンサルタントの僕。
僕がリアルで体験してきた事を戦略的な視点で再確認できるというなんとも不思議な本だ。
自分が体験したことを、戦略的に評価した本を読めるなんて、幸せな立場だ。
たぶん僕は誰よりもこの本の内容を正確に理解できる立場にいると思う。

僕は大学を卒業してすぐにIBMに入社し、宣伝部に配属された。
新人でいきなり宣伝部配属というのは、かなり運がいい。
僕は宣伝部に配属されて驚いた。
当時はIBMの持つ多くの製品・サービスの広告は全てバラバラに制作されていた。
広告予算は各製品・サービスの事業部がそれぞれ握っており、宣伝部はその広告制作や媒体の購買を行う部門だった。
IBMの製品全体の統一された広告メッセージなどというものはない。
てんでバラバラ。
広告キャンペーンも製品・サービスごとに別々。

コンピュータは単体ではなく、製品・サービスを組み合わせたソリューションとして提供されるにもかかわらず、広告は単体で個別に制作されていた。
「IBMの強みって個別の製品じゃなく、全てを提供できることなんじゃないの?」
「製品個別じゃなく『IBM』そのものを売り込めばいいのに」
「バラバラでキャンペーン打ってちゃ、予算の無駄じゃん」
新人だった僕は事あるごとにぼやいていた。

おまけに、会社全体としてのマーケティング部門というものも存在しなかった。
当時のIBMにとってのマーケティングとはイコール営業。
個々の顧客単位にどう売り込んでいくか、がマーケティングだった。
IBMはマーケティングが弱い、というよりマーケティングが不在だった。
「おいっ、IBM全体のマーケティング戦略を考えている人はこの会社にはいないのかよっ」

これがおかしい、なんて事は新入社員の僕にでもすぐにわかった。
でも当時は誰もギモンにすら思っていなかった。
何年も続いているしくみだったから。
時代が汎用機からパソコンに、そしてソリューションに移行していたにもかかわらず、IBMのしくみは汎用機を売る事に最適化されたままだった。
当時のIBMでは大学を卒業したばかりの新入社員が一瞬で見抜けるような課題が、課題としてすら認識されていなかった。
一社から何十億、何百億という売上を上げるビジネスモデルだったので、一社一社の顧客にたいして、個別に対応する営業が最重要視されていた。

この本にも、宣伝・マーケティングの改革の話は出てくる。
だけど、宣伝・マーケティングの改革だけを見れば、たいした話ではない。
当時新人だった僕ですら気づくような事だから。

(その2に続く)




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