斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2002年11月03日(日) |
チェンジ・ザ・ルール |
「ザ・ゴール」の第三段である「チェンジ・ザ・ルール」を読んだ。
第一段の「ザ・ゴール」は工場内の生産効率を最大化する話だった。 工場内のボトルネック(制約条件)を見つけ出し、全体最適をはかる物語だ。 生産管理において生産過程の最も時間がかかるボトルネックに合わせなければ結果的に生産効率を最大化することはできない、という理論についての物語。 単純に言えば、集団で歩く際にも一番歩くのが遅い人を早く歩けるようにしなければ、集団全体としては早く移動できない。 全体として効率を上げるためには、ボトルネックとなっている一番歩くのが遅い人を見つけ出し、その人を早く歩けるように手段を講じること、という理論だ。
第二段の「ザ・ゴール2」は工場からマーケティングまで話が広がった。 工場の生産効率が上がって、モノをたくさん作れるようになっても今度はマーケティングがボトルネックとなって、結果的に在庫が溜まる。 工場内から企業全体に話を広げ、企業全体で全体最適をはかろう、という話だった。 ただし、小説として読むとかなりつまらない。 全然面白くない。
そして今回の第三段の「チェンジ・ザ・ルール」。 今回はERPの話だ。 第二段の「ザ・ゴール2」を読んだときは「二度と読むか、こんなつまらない本」と思ったのだけれど、最近ERPがらみの仕事も多いのでがまんして読むことにした。 ERPの話だと言うと、かなりつまらない本のように見えるが、実は非常に面白い。
「ERPを導入したは良いけれど結果的に企業の収益が上がっていない、さてどうしよう?」という疑問に答える物語。 答えは題の通り「ルールを変えなきゃだめよ」という事。 コンサルタントの僕にとっては当たり前、といえば当たり前のことだ。 この物語はERPソフトの開発会社が舞台となっているので、どうしてもシステムを導入することや自分の担当分野の業務改善だけに注力してしまい、結果として会社の収益改善に頭が廻らない、という設定。
ERPを導入することにより工場の生産効率が上がりました。 でもなぜか倉庫の在庫は膨れ上がってしまいました。 結果的に会社のキャッシュフローは赤字を垂れ流し。
物語はまた例によって全体最適の話なので、企業全体のサプライチェーンを見渡して、業務を変革しようとする。 ERPを導入し、部分最適を行うだけでは企業全体としては何も変わらず、かえって収益には悪影響を与えるかも知れないのだ。 ボトルネックが移動するだけ。 ERPを導入することではなく、企業全体のオペレーションの「ルールを変え」、収益を増大させる。 「ルールを変える」事を抜きにしては効果は得られない。
ERPについては「この服を着たければ痩せてきてください」と良く表現される。 ERPは「ベストプラクティス」として設計されている。 ERPを企業のオペレーションにあわせてカスタマイズするのではなく、企業のオペレーションをERPにあわせる。 でも、実際は企業の現行のルールにあわせてERPはカスタマイズされまくっている。 ERPの仕様に企業のオペレーションをバカ正直にあわせる必要もないけれど、企業側の現行オペレーションにそのままあわせてしまっては何の意味もない。 「顧客のニーズに応える」という悪しきマジックワードにもとづくERPのカスタマイズ。 顧客のニーズが「現行業務のルールは変えない」という前提に立ってしまっているにもかかわらず。 そうなると本来は全体最適をめざすはずだったのに、特定の業務の改善にとどまってしまう。
確かにシステム屋さんが陥り易い罠だ。 僕もシステム屋さんと会話をすると部分最適を主張するシステム屋さんと全体最適を主張する僕ら戦略コンサルタントとの間のギャップは日々感じる。
物語の後半ではサプライチェーンは工場→会社全体→業界全体へと広がっていく。 サプライチェーンは個々の企業体だけではなく、業界全体に広げてはじめて全体最適となるのだ。 原材料調達から工場、流通、エンドカスタマー。 既に今の世の中の動きはその線で動いているんだけど。
ERPを導入することそのものが目的と化し、本来の目的を見失っている企業が多いのは事実。 特に部分最適となってしまっているプロジェクトが大半であろう。 本来のERPは企業全体の全体最適のツールのはずなんだけど。
「ザ・ゴール2」で幻滅した人も「チェンジ・ザ・ルール」は読んだほうがいい。 特にERPのシステム開発にかかわっているような人は読むべし。
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