自立日記
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2003年12月18日(木) 3年間かけて得た、キス

俺が得たものは、Hチャンの唇だった。
でも、それでもいいと思う。

俺が3年間、Hチャンのそばに居て、
そのうち数ヶ月間は、同じバイト先の仲間として。
そのうち1年間は、同じ会社の同僚として。
俺にはN子という彼女がいたから、Hチャンも安心していたし、
愚痴や、好きな人の話や、付きまとわれてる男の話なんかを聞き、
カラオケやオールナイトを繰り返し、
そして、独りで上京するという、2日前の夜、
キスをもらった。

その直前、映画を見た。
その後電話で聞いた話だと、あれでムードが出て、ノセラレタって言ってた。
映画はスパイダーマンだった。
別にロマンチックな映画でもないんだけど。キスシーンはあったし。
俺は色々な状況と、運命をなんとか利用して、利用して、
そして遂にキスを獲た。

日没後の公園のベンチに座ったまま、向かい合って抱きしめた。
俺のあごがHチャンの肩にかかるようにして、
お互いの顔が見えない姿勢で。
頭をなでてあげた。
いつキスしようかなんて、タイミングは取らなかったけど、
その時はもう、これで最後だから、キスをしようという話は付いていたんだ。
後で聞いたときに、その日は血が出るほど歯を磨いてたそうだ。
Hチャンも予感してたんだ。

耳元で、「俺の彼女になって」って言った。
聞き取れないくらいの小さな声で。
何度もHチャンに迫った言葉だ。
Hチャンは「今はいえない」って言った。
この言葉の意味は、いずれ恋人になるかもしれないって、俺は思っていたけど、
彼女にとっては、旅立つ前の俺を傷つけない、精一杯の断り文句だった。
とにかく長い間、そのままの姿勢でいた。
断られたから、キスに持って行けなかった。
だけど、その時の俺が、しないで済むわけがない。
ずっと抱きしめている間に、俺の想いがHチャンの身体に伝わればいいと思った。

はじめは軽く。
唇をいたわるように。優しく。
これが、Hチャンにとって、ファーストキス。
なぜか女とはしたことあるそうだけど。

2、3回キスした後、なぜかHチャンが、少しだけ舌を入れてきた。
偶然舌が触れただけかもしれない。
でも、それで俺の中の何かが外れて、
優しいキスで終わろうと思っていたのに、
ディープキスになってしまった。

でも下品なものにしたくなかったから、
舌は入れたけど、
宝石を触れるように、優しく、優しくキスをした。
長い間、キスをした。
唇の感触は、覚えていない。
その時は、Hチャンを繋ぎ止めているだけで精一杯だった。
心地よかったと思う。夢中だった。

触れたり、離れたり、何度も、何度もキスをした。
Hチャンは、拒まなかった。
けれど一回も、ただの一回も、Hチャンのほうからキスをしたことはなかった。
最初に舌を入れたくらいだ。

時には頭をなでてあげるようにし、
耳たぶや頬にもキスした。
後でHチャンは、癒されたと言ってた。
俺と付き合ったら、マッサージもしてあげるし、毎日いたわってあげるよ……。

気が付いたら、40分くらいキスをしてた。
Hチャン自身、こんなに長くキスしていることに戸惑っていた。
でもそこを動こうとはしなかった……。
最後はちょっとふざけて、胸を触った。
胸触っていい?って聞いて、ウンって答えたので、触った。
ツルペタだと思っていたけど、けっこうあったので驚いた。
いつもブカブカで男の子みたいな格好してるから。
もちろん服の上からだけど、柔らかかった。
その時のことを後で、触られて心地よかったって言ってた。

俺はその日、同僚と飲む予定を入れてしまってたので、
どうしても帰らなくてはいけなかった。自分が飲もうって言い出しっぺだったから。
それでも相当遅刻したけど。

もしあの時、ホテルに誘っていたら、セックスできたかもしれない。
逆に言えば、Hチャンも飲む予定は知っていたから、
俺と日没まで会ってくれたのかもしれない。
どうなっていたかは、わからない。
ただやっぱり、Hチャンの目はトロンとしていたように思う。

俺は、キスを手に入れたのだから、
満足できるのではないかと思う。
Hチャンは可愛いけど、相当変わり者。
だから俺が、あのタイミングで、あの環境で、あの関係で、
あの映画の後で、飲み会の直前で、上京する前の、最後の日でなくては、
Hチャンとはキスできなかったと思う。
あの日以来、あの子と会えていない。最初で最後のキスだ。
俺は、やっぱり、もう、死んでもいい。
想い出だけで生きていけるかもしれない。


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