あたしは。たぶんそんなに強くはない。 だから。簡単に揺れるし。簡単に疑う。 でも。あたしはきっとそこまで弱くもない。 だから。1番大切なものは絶対に見失わへん。
見失いそうになっても。手放したりはせーへん。 どんなに迷っても。どんなに痛くても。 醜くて弱い自分に嫌気がさしても。 最終的にあたしの中に残る確かなことがひとつあるから。
それは。そうるのことを誰よりも愛しいと思う気持ち。
今日は。ようやくそうるに会えた。 ずっと失ってた体の一部が戻ってきた感覚やった。 嬉しかった。幸せやった。深く深く満たされた。
グランドに着いて。しばらくしたらまひろが来て。 まひろと会うのも久しぶりやったから。いろいろしゃべってたら。 あたしの感覚を呼び覚ますようなバイクの音がして。 河川敷の土手の上を見たら。大好きな姿がそこにあって。
メットを外して。頭を振って。JIBバッグを肩にかついで。 ラケットもどきを軽く振り回しながら階段を下りてくる姿。 見慣れたいつもの姿やのに。久しぶりやから不思議な感覚やった。 あたしは。まひろの話はそっちのけでずーっと見てた。 その姿は。あたしの視線に気づくとふと顔を上げて。 あたしと目が合うと。フッと笑った。
あぁ。もう。分かってるくせにそんなふうに笑わんといて。 やばいんやから。それだけであたしは泣きそうになるんやから。
「おいっすー。」って。そうるはいたって普通に現れて。 「ちょー。あんたバイクで来んかったんやー。」なんて。まひろに話しかけてた。 いつもと何も変わらんそうるで。あたしの大好きなそうるやった。
よく考えれば当たり前のことなんやけどね。 あたしがいろいろ考えてる間も。そうるの日常は流れてて。 平凡なその時間の中で。そうる自身は何ひとつ変わってないわけで。
あたしみたいに浮いたり沈んだり。変動激しいのとは違って。 そうるの愛情はいつだって穏やかで。大きくて。あったかい。 たぶんそれを受け止めるあたしの状態が。ちっとも一定じゃないから。 そうるの愛情も気まぐれで変化激しいものに思えてまうんやろう。
すべては自分次第。やっぱりそういうことなんやと思った。
久しぶりに会えた嬉しさで。あたしはほんま終始そうるを見てた。 タオルを頭に巻いて。本気モードになってる姿。 後輩を捕まえて。こっそりアドバイスしてる姿。 はつねと冗談言い合って。ゲラゲラ笑ってる姿。 どのそうるも。あたしの大好きなそうるやった。
一緒に絡めるプレーでも。ちょっと神経が変な方向に行ってた。 そうると勝負するときはいつだってそう。邪念が頭のどこかにある。 もちろん真剣勝負なんやけど。油断すると見とれそうになってまうし。 見とれるとか抜きにしても。やっぱりそうるはどうやっても強くて。 うまく説明できんけど。他のプレーヤーとは全く違う。別格。 4戦して3敗1引き分け。もうほんま。かなわへんなぁって再確認。
なんか恋愛でもプレーでも。あたしとそうるやったら。 いつだってそうるが一枚も二枚も上手な気がした。 実際そうかと言われたら。そこまで強烈な差はないんかもしれんけど。 あたしがそうるを認めすぎて。どこまでもすごいと思いすぎて。 気持ちで負けてるような気がして。ちょっと悔しかった。
でもそうるは。あたしの小さなミスの後で。 ちゃんとアドバイスしてくれることを忘れんかった。 「あんたの場合はさぁ。」って。あたしのクセを指摘してくれて。 「ちょっとやってみ。」とか言って。あたしを見てくれたりもした。
久しぶりに会ったせいもあって。優しさが沁みてたまらんかった。
どうでもいい話もいっぱいした。 誕生日が来てから初めての練習やったあたしは。 暑かったし。練習自体が久しぶりやったし。バテそうな気がして。 「近くまでお茶持って行っとこ。」って。グランドまでペットボトルを運ぼうとしてた。
ベンチに座っててそれを見つけたそうるは。にやっと笑って言ってきた。 「てゆーかそんな年でよくやれるよなぁ。尊敬するわ。」って。 「なんやねん!半年ぐらい誕生日早いだけやん!」ってあたしが怒ったら。 「いやー。でもうちやったら2○歳にもなって続けるとか不可能やし。」って。 これまたむかつくことを言ってきやがって。
毎年そう。あたしがそうるより年上になる半年間。 そうるはあたしを散々おばさん扱いするんよね(怒)。 あたしはそうるに近寄ると。ほっぺたを軽く叩いてやった。 「もー!次言ったらマジで怒るからなー。」って。ちょっとふくれたら。 「じゃあもっと言い続けてやろー。」って。嬉しそうに笑いやがった。
くそぅ。楽しみやがって。性格悪いぞ。 でもそうやっていじめられるのはキライじゃない。 次言われたらきっと怒るけど。でも全然イヤじゃない。 そうるになら。いじられるのだって最高に幸せやから。
練習が終わって。用事があったはつねは急いで帰った。 そうるは。「のど乾いたー。炭酸飲みたいー。」って言って。 「あ、じゃあ半分飲むー。」ってまひろが言って。 「あ、じゃあ3分の1飲むー。」ってあたしが言って。 結局。3人で1缶のCCレモンを飲んだ。(どんだけケチやねん。)
飲みながら。まひろとそうるがバイク旅行計画を立ててて。 あたしの実家に行こうとか言う話になって。 「あー!来て来て!」っておおはしゃぎしたあたしに。 「じゃあ・・・○○○(←あたし)がおらんときに行って・・・。」とか。(←そうる。) 「あーそうやな。ほんで家の前で写真だけ撮るか。」とか。(←まひろ。) 散々なことを言っては。またあたしに「もぉー!」って言わせて笑った。 楽しそうに笑うそうるは。やっぱり愛しかった。
笑ってちょーだい。その笑顔が見られるためなら。 あたしは道化にでも何にでもなれるんやからね。 そうる。あんたに笑ってもらうために。わざと怒ってみたりするんやからね。 そんなあたしを。あんたは全然知らんのやろうけどさ。
「電車の時間あるから帰るわー。」って。まひろがグランドを後にして。 あたしとそうるは。ようやく2人きりになれた。 改めて一緒にいられる空間を実感して。あたしはそうるをじーっと見たら。 それに気づいたそうるは。「・・・なんやねん。」って。にやっと笑った。 「・・・なんでもないけど。」って。ちょっとふくれて言ったら。 何がおもしろいんだか。にやにや笑い続けて。 「会いたかったねぇー。」って。確認するように言ってきた。
いじわるそうる。あたしにばっかり言わせるなんてずるい。 あたしの気持ちなんて。分かってるくせに。 あたしだって。あんたの気持ちをちゃんと聞きたいのに。
「あぁ会いたかったさ。あんたは会いたくなかったん?」 半ばやけくそで。そんなセリフを無意識のうちに言ってもた。 そうるは。ちょっと目を細くしてあたしを見た後で。 「会いたかったで。」って言って。またにやっと笑った。
汗かきまくりのジャージとTシャツ。(上からウィンブレ着てたけど。) くっついたって。暑いし。ベトベトするし。きっと気持ち悪い。 そんなことは分かってたけど。もう考えるどころじゃなくて。 抱き締めたい心が限界で。あたしは自然と動いてた。
「臭いでー。」「あたしも臭いもん。」 「汚いでー。」「あたしも汚いって。」 「あんたらしくないな。」「うるさい。ほっとけ(笑)。」
格好構わずに抱き締めるあたしに。そうるは苦笑いやった。 それでも。あたしの気持ちを分かってくれてるみたいで。抵抗はせんかった。
くっつけた頬と頬が。汗でちょっと滑った。 あたしの耳に。濡れたそうるの髪が当たった。 きっとそうるの耳にも。あたしの汗が当たってるんやと思った。 あほみたいやけど。幸せやなぁって思った。
ねぇそうる。あたしは心であんたを抱いてるんやと思った。 ベタベタの肌でも。濡れた髪でも。ちっとも気にならんかった。 あんたはどうか分からんけど。あたしには汗さえも幸せやった。 体液と体液が触れ合う感覚。・・・こう書くと変な感じやけど(苦笑)。 あたしの体から出た液体と。あんたの体から出た液体。 それをお互いに感じあえる距離におることが。幸せやなって思った。
おしゃれして。化粧もして。向き合うこともステキやけど。 汚い格好でも抱き合えることが。ちょっと誇らしかった。 外見だけで好きになったわけじゃない。あたしたちは心と心なんやって思えた。
ねぇそうる。なんか改めて実感したんやけどさ。 あたしにはあんたがどうしたって必要で。 それはもうとっくの昔に分かってたことなんやけど。 たぶんあんたにも。あたしが必要なんやろうって思った。 うぬぼれでも何でもなく。ただ素直にそう思えた。
あたしとあんたと。きっとこの先も大丈夫やって思った。 何の根拠があるわけでもないんやけど。 たぶんまたすぐに不安になりまくるんやろうけど。 それでも満たされた心は。あっさりとそう感じられた。
そうる。こんなにも簡単に潤うあたしを。あんたは笑うかな。 ↑もしかしたらって思ってたんやけどね。 ・・・ってことで。続きはまた明日。 |