むかつく。許せへん。イライラする。 満たされん。もっと欲しい。もっともっと欲しい。
そんなことをひたすらに思ってたあたしやけど。 今日は。そんな自分が嘘のように穏やかな気分。 というより。乾ききった心に。優しい水が与えられて。 沁み込んで。潤って。満たされた気分。
分かりやすいけどね。そうるに会えたってことです。 そして。とりあえずちゃんと仲直りできたってことです(照)。
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今日も実習はしんどかった。 やらなあかんことがいっぱいで。さっぱり余裕がなかった。 はっきり言って。昨日ほどそうるのことは考えてなかった。 もう思考の隅っこに追いやられてて。どうでもよくなってた。
昨日の夜は。やらなあかん課題がいっぱいあって。 実は2時間ぐらいしか寝てなかったりしたから。 今日は家に帰ったらもうしんどさ限界で。ベッドに横になった。 睡魔に襲われるままに。すーっと眠りに落ちていく・・・予定やった。
それを遮ったのは。携帯のバイブ音。 マナーモードのままにしてた携帯は。カバンの中で震えてて。 メールならすぐ切れるはずやのに長かったから。電話なんやなと思って。 手探りで携帯を見つけ出すと。そのままいきなり電話に出た。
「もしもし。うち。」 電話の向こうは。そうるやった。 びっくりして眠気がいっぺんに覚めた。
「今どこ?もう終わったん?」 「あー・・・うん。もう家におるよ。」 「明日は実習ないやんな?今からちょっと走らん?」 「あー・・・ええけど。もう研究室終わったん?」 「うん。今日は早く上がれることになってん。」 「そっか。うん。じゃあ待ってるわ。」
電話を切って。我に返って。 なんかけっこう普通にしゃべってたなぁって思った。 日曜に。ごめんなさいメールを送って。 そうるからもごめんなさいメールが1通だけきて。 それっきり連絡とってへんかったのに。 ちゃんとしゃべれるもんやなぁって思った。
でも。会うのはちょっと心配やった。 さてどんな顔して会えばええんやろって思った。
6時過ぎ。電話から待つこと10分ぐらい。 そうるはバイクでやってきて。あたしを乗せてくれた。 「どこ行こっか。」「どこでもええで。」「じゃあ河原でも行こっか。」「うん。」 そんな程度の会話で。あたしたちは走り出した。
そうるが向かってたのは。いつも練習してるグランドやった。 河川敷にあるそのグランドは。あたしの家から30分ぐらい。 そうるのバイクに乗って。あたしは久しぶりのバイクの感覚に酔ってた。 体に伝わる振動。エンジン音。そうるの腰に回す腕の感触。そうるの匂い。 久しぶりの感覚は。あたしのストレスを吹き飛ばしてくれた。
信号待ちで止まるたびに。どうでもいい話をしてた。 そうるの研究課題の話。あたしの実習の話。サークルの話。 ちょっと気まずいことがあっても。普通に話そうと思えば話せる。 それだけの関係を。あたしとそうるはすでに築けてる。 でも2人して本題には触れんくて。触れたくても触れられん感じで。 お互いにお互いの様子を伺ってる感じが。ちょっと苦しかった。
河原に着いても。何をするでもなかったけど。 「なんか喉渇いたー。」って言って。そうるは自販機のとこに行った。 あたしは1人残されて。そうるのバイクに跨ってた。 ハンドルを触って。ブレーキを握って。ミラーをいじって。 いつもそうるの手が触れるであろう場所を。ひたすら触りまくってた。 いいなぁこいつは。いつもそうるに愛されまくって。 そんなことをぼんやり思ったりもしてた。
片手にコーヒー。片手にミルクティを持って。そうるが戻ってきた。 バイクをいじりまくってるあたしを見て。ちょっと笑った。 「壊すなよ。高いんやで。」とか。分かりきってることを言って笑った。 その顔は。なんか優しくて。保護者みたいな顔やった。 好き勝手やるあたしを見守ってくれる。いつものそうるの顔やった。 大きな愛情で。あたしをすっぽり包んでくれるような感じがした。
あたしの中で。またいろんな思いがあふれ出した。
もういいや。・・・またそう思ってしまった。 絶対に許せんって思ったけど。もういいや。 だってあんなにむかついたのに。目の前におるそうるがこんなに愛しい。 あたしの体は。こんなにそうるにくっつきたがってる。
結局はあたしはそうなんや。心底そうるを怒ることなんて出来んのや。 そんな自分を情けないとか。弱いとか。いろいろ思ってへこんだりもするけど。 でももう別にいい。だってそれだけ好きになってもたんやから。 それだけ愛さずにはおられん存在に。あたしは出会ってしまったんやから。
ちゃんと謝って。スッキリしよう。そしてまた仲良くなろう。 そう思って。ちょっと言葉を選んでたら。 意外なことに。そうるの方が先に話し始めた。
「しかし土曜はほんまに飲みすぎた。まじ反省してる。」 「・・・よーけ飲んだんやね。」 「てゆーか・・・あんたからしたらありえへんこともやったし。」 「・・・もうええって。あたしも言い過ぎたと思ってるし。」 「てゆーか・・・イヤな思いさせてごめんな。」 「・・・・・・。」
そうるは。あたしにバイクに跨らせたままで。自分はバイクにもたれた。 河原の方を見ながら。つぶやくように話してた。 あたしとそうるは。向いてる方向が90度ずれてたけど。 背越しに聞こえてくるそうるの声は。穏やかで優しかった。
「でもな。」そうるはちょっと黙った後で。 つらつらっと思いを語ってくれた。
うちがやってもた状況は。ありえへんことやったかもしれんけど。 でも。そんなに全面的に疑わんとってほしかった。 確かに覚えてへんから強く言えんけど。いくら酔ってたとしても。 うちは行きずりで男と関係を持つようなあほなオンナじゃない。 男にその気があったとしても。うちは絶対そんな方には流されん。 自分で状況作っといて調子ええけど。それは分かってほしかった。 そーゆうとこで疑われたのが1番ショックやった。
そうるの声は。静かにあたしの中に沁みてきた。 そしてあたしの涙を誘い出して。キレイな夕焼けを滲ませた。 そっか。そうるは怒ってたわけじゃなかったんや。 あたしがそうるを疑ったことが。ショックやったんや。 だからあんなふうに電話を切ったんや。連絡もよこさんかったんや。
ユラユラ景色が揺れた。涙が頬を伝って落ちた。 「泣かんとってや。泣かせたいわけじゃないねん。」 そうるはあたしの涙に気づくと。ポンって頭を叩いた。 それがまた余計にあたしを泣かせた。 でもあたしも。ちゃんと言いたいことを言おうと思った。
なんか電話では感情的になってもてごめん。 後からめっちゃ反省した。うるさくてごめん。 でもあたしはあの夜あんたのこと心配してたし。 それはあたしが勝手に心配してただけで。 あんたには関係ないことなんかもしれんけど。
でも。そんなときにあんたがそんな状況におったんかと思ったら。 なんか腹が立ってしょーがなかってん。 たぶん半分以上はヤキモチやねん。 でも残りの気持ちは。やっぱりあんたが心配やからやで。 何かあってからじゃ遅いし。そーゆうことには絶対なってほしくないから。 あんたがあまりにも余裕ぶっかましてる気がして。言わずにおれんかってん。
あたしはあんたを疑ってもたけど。でもずっと疑ってるわけじゃない。 もちろん基本的に信じてる。でも疑わざるを得ん状況をあんたが作って。 それでもあんたが平気なことが。あたしはショックやった。 でも。あんたも疑われてショックやったんよね。ごめん。
こんなふうなことを。あたしは出来るだけ冷静にしゃべった。 感情的になって。言わんでええことまで言わんように。 思いをできるだけそのまま言葉にできるように。慎重にしゃべった。 あんなに落ち着いてしゃべるなんて。あたしには珍しかったかもしれん。
そうるはやっぱり黙ってあたしの話を聞いて。 何かを自分の中で考えてるみたいやった。 いつものそうる。感情を自分の中に押し込めて。 自分の中でゆっくり消化するそうる。 そんなそうるの前では。あたしはいつも待つだけ。
しばらくして。そうるは「・・・うん。分かった。」って言って。 バイクから体を離すと。あたしの目の前に来た。
「もうええよな。言いたいこと言ったし。」 「うん。あたしも言った。」 「じゃあ仲直り。うちはもう怒らへん。」 「うん。あたしももう怒らへん。」
そうるは。真剣な顔をフッと緩めて。 「はぁ・・・疲れた。」って言った。 そっか。疲れたのはあたしだけじゃなかったんやね。 そうるも。いろいろ考えて疲れてたんやね。 そう思ったら。また体がぬくもりを欲しがり始めた。
溢れる愛しさをなんとか伝えたくて。 あたしはバイクから降りて。そうるに抱きついた。 あたしの体がしたがってたことを。心が許してあげた。 そうるは。最初はちょっとびっくりしてたけど。 そのままゆっくりあたしを抱き締めてくれた。 ちょっとしゃっくりあげたあたしの背中をトントンって叩いて。 「・・・泣き虫。」って。いつもみたいにからかった。
ねぇそうる。泣き虫は誰のせいやと思ってるんよ。 ほんま。自分のせいやって分かってるんかいな。 あたしの流す涙は。いつだってあんたへの愛に溢れてるんよ。 愛せる幸せと。愛される幸せで。あたしの涙は出来てるのに。 ほんま。あんたは全然分かってへんのやね(苦笑)。
あぁ。それにしても。気持ちがちゃんと通じてよかった。 やっぱり伝えようとする気持ちは。忘れたらあかんね。 分かってほしいなら。分かってもらう努力を。 分かりたいなら。分かろうとする努力を。 どんなに慣れ親しんだ関係でも。忘れたらあかんよね。
そうる。こうやって2人でぶつかり合うたびに。 自分を見つめて。相手を思って。あたしたちは成長していく。 痛いけど。しんどいけど。これって絶対に無駄なことじゃない。 きっとこうやって。ちょっとずつ大きくなっていくんやね。
ねぇそうる。それってやっぱりステキなことやね。
↑やっぱりちょっと涙ぐんでもた。 なーんか。ほんまに泣き虫で困るわ(苦笑)。 |