どうしてもっと早く気づかんかったんやろう。 誰よりも。あたしがそうるのことを分かってると言いながら。 あたしは。自分の抱える気持ちでいっぱいいっぱいになってて。 そうるの小さな異変に気づかんかった。気づけんかった。
ここんとこ。ちょっとへこみがちになってたあたしは。 サークル仲間の掲示板を全然見に行ってなかった。 正確には。そうるがあのカキコをして以来。 あたしは覗きに行くのもイヤになって。ずっと避けてた。
それを今日見に行って。ちょっとおかしいって思った。 そうるのカキコが。ひとつも増えてなかったから。
その掲示板は。そうるが管理人になってて。必ず毎日見てるはずで。 多いときには。1日に2、3度カキコしてるそうるやった。 それが。あの日のあのカキコ以来。そうるは姿を現してなかった。 みんなのいろんなカキコの中には。全員に呼びかけてるようなのもあって。 いつものそうるなら。ちゃんとレスしそうな感じやった。
それやのに。そうるのカキコは増えてなかった。
自意識過剰かもしれん。あたしの思い込みかもしれん。 でも。それはあたしのせいな気がした。 あたしもけっこう頻繁に掲示板を見て。頻繁にカキコする方で。 もちろんそれをそうるは分かってるから。 あたしがそうるのカキコを読んだことは分かってるはず。
そうるがどんな気持ちでそれを書いたかあたしに分からんように。 そうるも。あたしがどんな気持ちでそれを読んだかは分からんやろう。 それでも。読んだっていう事実は分かってるはず。 そして。それをどう受け止めたにせよ。 あたしがそれっきり掲示板に現れてへんことも。分かってるはず。 もしそれが。そうるが掲示板に現れん原因やとしたら。
そうるは。あたしを苦しめたって思ってるんやろうか。 あたしに連絡をよこさんのは。罪悪感からやろうか。 (あたしからも連絡とってへんから。なんとも言えんのやけど。) カキコしたことを。ちょっとは後悔してたりするんやろうか。
あたしは。ちょっとだけ考えて。小さな賭けに出た。
夜。久しぶりのカキコで。小さなウソをついた。 体調を崩してて。久しぶりにここに見に来たって。 みんながいっぱいカキコしてて嬉しいなーって。 彼氏が出来たって言ってた友達には「おめでとう☆」って書いて。 (彼女とは掲示板以外でも連絡とってたから、改めてってことで軽く。) そして。そうるには何も書かずに。カキコを終えた。
言いたいことはいっぱいあるけど。もちろんここで言うことじゃない。 「おめでとう」も。「ちくちょう」も。全部ウソっぽくなるから。 言うならちゃんと会って話す。2人だけのときに話す。 そう思ったから。あえて何も触れんかった。
あたしが確認したかったのは。そうるがどう出るかってこと。 平気。大丈夫。気にしてへんから。あんなカキコ。 そうやって示すことで。そうるがどう出てくるかってこと。 試すみたいで卑怯な気もしたけど。やってみた。
そして。あたしのカキコから約3時間後。もう1度覗きに行ったら。 そこには。そうるのカキコがちゃんと増えてた。
内容は。どうでもいいようなぼやきやったけど。 就職のこととかで。最近いろいろ考えるって書いてるだけやったけど。 あたしが思ってたとおり。ちゃんとそうるはカキコしてた。 まるで。あたしの出方をそうるがずっと待ってたみたいやった。
そのカキコを見て。あたしは言いようのない気持ちになった。
ねぇそうる。あんたもちょっと怖かったりしたんやろうか。 あたしを傷つけたっていう意識が。ちょっとぐらいあったんやろうか。 だからあたしが何も書かんうちは。あんたも何も書けんかったんやろうか。
あぁ。なんであたしたちは。こんなやり方しか出来んのやろうか。 お互いの真意を探るように。試しあうようなことしか出来んのやろうか。 そうる。あんたはあたしを好きやんね。あたしもあんたが好きやよ。 それならどうして。もっと正面からぶつかり合えんのやろうね。
そうる。やっぱり決めた。決めたよ。あたし。 追いかけっこは辞めにしよう。もう終わりにしよう。 あたし。ちゃんとあんたに話す。がんばって伝える。 だからあんたも話して。今の気持ちをちゃんとあたしに伝えて。 聞きたくないことでも。あたし。ちゃんと受け止められるようにするから。
その先どうするかは。あんたが決めることやから。 もうあたしは。信じるしかない。 今まで一緒に過ごしてきた時間。注ぎあった愛情。 その重みを。ただ信じて待つしかない。
失うかもしれんなんて。もう恐れへん。恐れてても始まらんから。 失いたくないなら。しがみついてでも守るしかない。 結局。自分の幸せは自分で守るしかない。
金曜の夜に。久しぶりにそうると会うことにした。 「おいっす。実家からおいしいお肉送ってきてん。一緒に食べへん?」 勇気を出して送ったそのメールに。すぐ返事がきた。 「肉かぁ。いいねぇ。じゃあすき焼きにしてなー。」 そう言うそうるは。やっぱりかわいくて。愛しかった。
あたしの目的が。一緒にお肉を食べるってことじゃないこと。 そうるは分かってるんやろうか。分かってないんやろうか。 でももうどっちでもいい。あたしは精一杯やるって決めたから。
おいしいお肉の味が。涙味になってしまわんように。 泣き出さんように。ちゃんと伝えよう。 好きってこと。必要ってこと。そして嫉妬のことも。 言葉にすると重くなりそうで。そうるの重荷になりそうで怖いけど。 でも。はぐらかすのはもうやめよう。嘘つくのももうやめよう。 ありのままのあたしを。好きになってもらいたいから。
これは。もっと幸せになるための決断。 別れるためじゃない。終わるためじゃない。 これからもずっと続いていくための決断。 それが分かってるなら。きっと間違わない。
がんばれあたし。大丈夫。きっと大丈夫。 |