つまらないことでケンカするのは。もう減ったと思ってた。 もうそこそこいい年。幼い子どもとは違う。 その場の感情だけで。泣いたり怒ったり。 自分の言い分だけを通して。わがまま言ったり。 いつまでもそんなんじゃあかんと思うし。 がんばって抑えようと思えば抑えられるし。 我慢も出来る年になったと思ってた。
でもやっぱり。理屈がどうとか言うより。 そんなことはどうでもいいから。むかつくもんはむかつくんや。 そう思ってしまう自分も。確かに存在してる。 矛盾しまくり。人間なんてそんなもんなんやろうか。
あたしは。こうやってそうるへの想いを無限に綴れる。 感情の表面は変わりやすくて。いつも波立っていても。 根底に流れる愛は変わらんとか。えらそうなことを言ってみる。 でも日常生活において。表面とか根底とか。 そんなこと知らんわって言いたくなるくらいに。 頭の中が。愛しい人へのむかつきでいっぱいになることもある。 そして。もうあたしは心の底からこの人が嫌いなんとちゃうか。 いつの間にかそんなふうに思えることすらある。
・・・今日のあたし。まさにそれ。
原因は。いつだってしょーもないこと。 後から思えば。なんでそんなことでって思えるような。 でもその時のあたしには。超重要問題で。 ちっちゃな許容量で。精一杯抱え込んで耐えようとして。 でも無理。我慢できん。あほ。あほ。あほあほ。 そう思って。感情がむくむく膨らんで。ぷっちーんって弾けて。 そこから後は。もう自分でも収集つかんくなる。
ケンカは両成敗。だからあたしも悪い。 でも。そうるのあの当たり様は。ちょっと許せん。
あたしは水曜は大学が休みで。だいたい家にいることが多い。 たまった洗濯物を片付けたり。部屋の掃除をしたり。買い物に行ったり。 そんな感じで。けっこうのんびり過ごしてる。
だから昼過ぎにそうるからメールが来たとき。あたしは普通に受け取った。 「今日さ、実験早く終わりそうやねんけど、大学来れる?」 あたしの家から大学までは。原チャで5分ぐらい。 今日はヒマやし歩いて行こっかな。そうるがおるなら帰りはバイクがあるし。 寒かったけど。出ていくことは別に苦にならんかったから。 「ええよー。んじゃ食堂行っとくから終わったら連絡して。」 そう言って。あたしは着替えて出かけた。 ちょうど探したい資料もあったし。ちょっと早めに行った。
大学に着いて。あたしは図書館に行った。 資料を探して。どうにか見つけて。それをパラパラ読んでるうちに。 あたしは眠くなってきて。ちょっとぐらいええかーと思って。寝てしまった。
起きて携帯を見ると。メールが3件と不在着信が1件。 携帯をかばんの中に入れてたあたしは。バイブに全然気づかんかった。 (やばい。きっとそうるからや。どうしよ。)そう思った。
連絡くれた時間から。30分以上たってた。 「終わったでー。どこの食堂おるん?」 それから5分後。 「○○食堂かと思ってきたらおらんし。どこや?」 さらに3分後。 「なんなん?つながらんってことは研究室か?」 そしてそれからすぐに。不在着信。
あたしは大急ぎで図書館を出て。そうるに電話する。 つながらない。留守電になる。困った。どこにおるんやろう。 最後のメールで研究室のことを言ってたから。 あたしはとりあえず。いそいでそこに向かう。 図書館から研究室まではけっこうな距離。 歩いてきたことをちょっと後悔しつつ走る。
研究室のある講義棟にもそうるはいない。携帯の時計はもう5時。 やっばい。どうしよう。あたしの返事が遅いから帰ったんかな。 バイク乗ってる途中とかやったら電話取れんやろうし。 でもさすがに放置して帰るまで鬼じゃないよな。 そんなことを思いながらオロオロしてたら。そうるから電話がきた。 あたしは。速攻で電話に出る。
「あー。やっとつながった・・・。(←溜め息。)」 「ごめん。図書館で寝てもーてん。今どこにおるん?」 「・・・はぁ?寝てた?あほちゃうん。ありえへん。」 この「ありえへん。」の言い方が。妙にイヤな感じで。 あたしの心に。なんとなく引っかかった。
「ほんまごめん。で、今どこにおるん?」 「普通に食堂で待ってるし。」 「食堂?電話したけど全然出ーへんやん。」 「いや食堂で待ち合わせたら普通は食堂におるやろ。」 「電話かかってへんの?そこ電波悪い?」 「いや・・・てゆーかあんたはどこにおんねん。」
会話が全然噛みあってなかった。 最初は怖かったけど。だんだんむかついてくる。 電話が通じんかったから。研究室に行ってみたとか。 バイクに乗ってる途中やと思ったとか。 いろいろ説明せなあかんことはあるのに。 そんなんが面倒になるくらい。あたしはイライラしてきた。
なに?なんでそんな言い方されなあかんの? まずは寝てたあたしが悪いけど。なんでそこまでキレてんの? だいたいそっちが呼び出したんちゃうの? いろいろ考えてたら。マイナスの感情がどんどん生まれてきた。
「・・・なんなんその言い方。」あたしはついぼそっと言ってしまった。 それが最悪なことに。そうるにしっかり聞こえたらしく。 「はぁ?何が?」って言われて。あたしは言葉をなくす。 声色から。怒ってるのがしっかり伝わってきて。背筋が凍る。 でもむかついてるのもあるから。言いたいことは言う。 そして。醜い言い合いになる。
「そんな言い方せんでもええやん。」 「はぁ?そっちが寝てて待たせといて何言うん?」 「謝ってるやん。それにそっちが呼び出したんやん。」 「なんやねん。うちが悪いんかい。」 「悪いとかじゃないやん。そんな話してへんやん。」 「・・・意味分からん。」 「何が分からんの。てゆーかなんでキレてんの。」 「キレてへんわ。あんたが勝手にキレたんやろ。」
・・・情けない。でもこんなことばっかり言ってた。 大学内の道でそうるからの電話を受けたから。 横を通り過ぎる人が。ちょっと不思議そうな顔をしてあたしを見ていく。
そうるは大きな溜め息ひとつ。そしてあたしに最後通告。 「呼び出しといて悪いけど会う気失せた。今日は帰る。」 あっさり。はっきり。そう言われた。 こんだけ思ってることハッキリ言えたら。どんなに気持ちいいんやろう。 そうるらしくて。ある意味尊敬した。(←思いっきりイヤミやけど。) 「分かった。寝てたんは悪かった。ごめん。じゃあ。」 それ以上話したくなくて。あたしも電話を切る。
泣き虫のあたしやのに。涙は出てこんかった。 それよりむしろ。そうるへのむかつきがさらに膨れてた。 なんであんな言い方しか出来んのやろう。人の言ってること聞かんし。 あんなんじゃ全然話にならんやん。ほんま。あほやわアイツ。 バイクで帰るはずの帰り道をひとりで歩きながら。 あたしのイライラはさらに増えてた。
ねぇそうる。モノは言い様。あたしは常にそう思ってる。 同じことを言われるにしても。言われ方で受け取る感じが全然変わる。 あたしが寝てたことに対して。今日のあんたの言い方はむかついた。 「あほちゃうん。」って言われるにしても。 いつもの冗談じゃなくて。ほんまにあほって思われてる気がした。 それであたしもむかついて。それ相応の返事しか出来んくなった。 あたしの言い方も悪かった。だからあんたのことばっかり悪くは言えん。
はぁ。難しい。なんでこうなるんやろうね。 あんたとケンカしたいなんて。あたしはただの1度も思ったことないのに。 ちょっとした気持ちが伝わらんくて。分かってほしいのに分かってもらえんくて。 お互いもどかしくて。お互いむかついて。ケンカになる。
あー。幼い。あたしもあんたも。まだまだ幼すぎる。
|