目覚めたときに隣に愛しい人がいる。 それだけで。幸せな気持ちになる。 あたしより目覚めるのが早いそうるやけど。 だいたいあたしが起きるまでベッドにいてくれる。 そういうさりげない優しさが。あたしをまた揺する。
今日はそうるは9時からバイト。起きたのは7時過ぎ。 そうるは荷物取りに1回家に帰らなきゃいけないし。 のんびりしてる時間はなくて。ごはんも大急ぎで食べる。 ちなみに今日は。白菜のお味噌汁に納豆。やっぱり和食。
「ごめん。バタバタして。」って。そうるは着替えながら言う。 パジャマをポイポイ脱いで。ジーパンとニットになる。 あたしは。そうるが脱ぎ散らかしたパジャマをたたみながら。 「うんにゃ。バイトがんばりやー。」って言う。 なんか。新婚夫婦みたいで。ちょっと笑えた。
「あんたは今日もなんもないん?」って玄関で聞かれて。 「んー。昼練は行くけど。」って答える。 「そっか。ヒマ期やなー。ええなー。」ってそうるは笑って。 「んじゃね。おじゃましましたー。」って言ってドアを開けて出る。 それからちょっとあたりを見回して。短いキスをくれた。 時間がなくても。お決まりのキスは忘れてない。 そんなそうるが愛しくて。あたしは笑ってそうるを見送る。
あたしの部屋の前の通路からは。下の駐輪場が見える。 階段を降りていったそうるは。やがて駐輪場に姿を現す。 そうるを見下ろして。あたしは声をかける。 そうるはあたしを見上げて笑う。 なんか。ロミオとジュリエットみたいじゃないか?(笑) (いや。ちょっとこれは乙女モード入ってるかも。) そんなこと思ってたら。なんかおかしかった。
手を振って。バイクにまたがって。そうるは去っていく。 そうるの姿はあっという間に見えなくなる。でも。 バイクの音が聞こえなくなるまで。あたしはその場から動けない。 そうるの気配が完全に消えるまで外にいて。それから部屋に戻る。
さっきまでそうるがいたのに。今はそうるがいない。 当たり前のことやけど。それが寂しい。
ねぇそうる。こうやってあたしはいつもあんたを見送るけど。 後に残されるのって。めちゃめちゃ寂しいんよね。 あんたはこれからバイトとかいろいろやることあるから。 寂しいとか思ってるヒマないんかもしれんけど。 いや、ヒマとかヒマじゃないとかそんなん関係ないかな。
あんたは新しい景色の見える場所に行くけど。 あたしは今までと同じ景色の見える場所に残るやん。 新しい景色に相手がおらんのは当たり前やけど。 今までと同じ景色やのに急に相手がおらんくなる。 そういうのが。あたしは寂しいんやと思うねん。
だってさ。この部屋には。あんたの残り香がありすぎる。 キッチンにはあんたの使ったコップがあって。 部屋にはあんたの着てたパジャマがあって。 ベッドにはあんたのくるまったシーツがあって。 ほら。部屋中にあんたの気配が残されてるやん。 いっぱいあんたを感じるのに。そのあんたがここにはおらんとか。 そーゆうのが。どうしようもなくあたしを寂しくさせるんやと思う。
だからあたしは見送るのがキライなんよね。 キライとゆーか。寂しくて苦手なんよね。 そうる。あんたは知らんやろ。こんなあたしの気持ち。 見送られるばっかりのあんたは。きっと知らんはず。
・・・あ。でも。でも。・・・あたしは思い出す。 そうや。あたしもそうるに見送られたことがあった・・・。
あれは確か。あたしが1人暮らしを始めたばっかりの頃。 飲み会の後。そうるが初めてあたしの部屋に泊まりに来てくれて。 まだベッドも何もない部屋で。床に敷いた布団で一緒に眠った。 その次の日。あたしは1限からで。そうるは2限からで。 そうるに鍵を預けて。そうるを部屋に残して。 あたしが先に家を出たことがあったっけ。
あたしの家やのに。そうるがあたしに向かって。 「いってらっしゃーい。」って言って送り出してくれて。 裸足で玄関に立って。ドアの隙間から顔をのぞかせて。 笑顔で。ひらひらーっと手を振ってくれた。
あたしは。そんなそうるを見て。すごい幸せを感じたのを覚えてる。 一緒に住んでるわけでも何でもないのに。 「いってらっしゃい。」っていう単純な言葉に。 戻るべき場所を明示されたような気分になって。 言い表せない安堵感に包まれたのを覚えてる。
あぁ。やっぱりあたし。あんたと一緒に暮らしたいな。 「いってらっしゃい。」「いってきます。」 「おかえり。」「ただいま。」 そういう言葉を。当たり前のように交わせたら。 どんなに幸せなんやろうね。
はぁ。そうる。あんたに会いたいよ。
|