昨日の夜。テスト勉強をしながら携帯を見てた。 23時59分。あたしは黙って時が過ぎるのを待つ。 思い出してしまったことのために。
ナイターの帰りの幸せなやり取り。 それだけに浸って幸せな気分でいられたらよかったのに。 あたしはどうしてだかギリギリで思い出してしまった。 思い出したくないことを。忘れていたいことを。
そして・・・。0時。携帯の表示が9月3日になる。 あぁ。あれからもう半年がたつんだ。 あたしはそっと目を閉じる。心に痛みが走る。
ねぇそうる。半年前の今日が何の日やったか。 あんたにとってどんな日やったか。 あたしはまだ忘れられてへんかった。 こんなこと覚えてるあたしを知ったらあんたはどう思うんやろう。 どんな目をしてあたしのことを見るんやろう。 あたしのこと怖いって思うんかな。気持ち悪いって思うんかな。 そしてもう好きじゃなくなったりするんかな。 あんなふうに笑ってくれることも、 抱き締めてくれることもなくなるんかな。
でもその事実はあんたから言ったこと。 あたしが無理に聞き出したわけじゃない。 あんたは罪の意識なんて全くなく、あたしに言ってくれた。 そう。悪気なんて全くなく、あたしをズタズタに切り裂いてくれた。 あたしにとって1番残酷な真実で。
半年前の今日。・・・それはあんたが彼に初めて抱かれた日。
あたしが初めてあんたに抱かれた日のことはもちろん覚えてる。 幸せな記憶。忘れられない甘い夜。 この世の幸せをすべて手に入れたような気分やった。 冗談じゃなくて。本気で幸せやった。 この瞬間ならもう死んでもいいと思った。 いつかそのことも書きたいけど。 今日思い出したのはそんな幸せな記憶じゃない。 苦くて。痛くて。でも消せない記憶。
ねぇそうる。そのことを知ってあたしがどんな思いやったか。 あんたには何度も何度も言ってきたやん。 だからあんたはあのときのあたしの痛みを知ってる。 言葉に表せないほどの痛み。死にたいほどの痛み。 あの時のあたしは恐ろしいほどに自分勝手で、 あんたの都合なんか考えられずに(考えても最終的には無視して) あんたに思いをぶつけまくってたやん。 あんたはそれをちゃんと聞いてくれた。 あたしの気持ちを理解しようとしてくれた。 それはいっぱい感謝してる。
でも。あんたはきっと知らんのやろうね。 あたしが今でも時々その傷に苦しんでることは。 例えばこうやって覚えてる日から何ヶ月か経つたびに。 癒えきっていない傷が再び疼きだしてることは。 あたしが言ってないから知らんくても当然なんやけど。 あんたは絶対に知らんと思う。
傷つくことを覚悟の上で。 あんたを傷つけることも覚悟の上で。 あの日あんたが彼に抱かれたことを知って、 あたしは何がそんなにショックだったか。 そうる。もう1回教えてあげるわ。
あんたが彼に抱かれた。 最初は単純にその事実があたしを苦しめた。 あんたの体を。腕とか脚とかは筋肉質で硬くても、 胸とかお尻とかは意外と柔らかいあんたの体を。 あたしだけが愛しているはずのあんたの体を。 あたし以外の誰かが触ったことが許せなかった。 どんなふうにあんたに触れたのか。 どんなふうにあんたが感じたのか。 いろんなことを考えたら気が狂いそうやった。
「抱かれる」ということは。 あたしには大きな意味を持っていることやから。 大抵の人にはそうやと思うけど。 自分の体を自分以外の誰かに好きなように触らせるなんて。 そんなの誰かれにでも許せることじゃない。
別にいやらしいとかじゃなくて素直にあたしは思うんやけど。 その行為で相手に快感を与えるなら、あたしも快感を与えられたい。 一緒にその行為を行なうことで相手と快感を共有したい。 相手が快感を感じるのと同じように、それ以上にあたしも感じたい。 それは相当心を許した相手とじゃないと無理なはず。 少なくともあたしは無理なこと。
そして心を許した相手と肌を合わせることがどんなに幸せなことか。 触れ合う愛しい人の肌のぬくもりがどんなに心地いいか。 互いの存在を認め合えて。分かり合えて。満たされて。 それはこの世にこれ以上はないとすら思えるほどの幸せ。
そうる。あたしはそれをあんたに教えてもらった。 だからきっとあんたにとってもそうやったんやと思ってた。 あんたがあたしに愛される幸せを教えてくれたように、 あたしもあんたに教えてあげられたと勝手に思ってた。
そしたらだんだんもっと苦しくなってきた。 あんたがそんなふうに体を許せるほどに、 あたし以外の誰かに心を許したことが許せなくなった。 あたし以外の誰かから幸せを教えられたことが許せなくなった。 あたしにとってあんたは唯一無二の存在で、 誰よりも誰よりも愛しい人やったから。(もちろん今でも。) あんたにとってもそうなんやとあたしは信じてた。 それなのに。あんたにはそうじゃなかった。
「違う。そんなことない。」ってあんたは言うかもしれんけど、 少なくともあたしにはそう思える行動をあんたはとったやん。 彼に体を許したこと。彼に「抱かれた」こと。 それがあたしには我慢できへんことやってん。
そして。あたしは悲しいことに自分を追い詰めてもた。 あんたにとってどっちが幸せなんかなって。 あたしを「抱く」ことと。彼に「抱かれる」ことと。 サドスティックなあんたは「抱く」方が幸せかもしれへん。 でも女の部分は「抱かれる」ことで幸せを感じるかもしれへん。 分からへん。あんたはどう思うんやろう。 そんなことを考えてたらもうどうしようもなくなって、 気づいたらあたしはひとりで声をあげて泣いてた。
ねぇそうる。あの日を思い出して。そしてあたしは思ってもた。 もしかしたら今日。あんたは彼と会ってるかもしれへん。 あんたは記念日とかを器用に覚えるタイプじゃないと思うけど。 もしかしたら覚えてるかもしれへん。 そしてまた彼に抱かれてるかもしれへん。 あたしだけに見せてくれると思ってたあの顔を。 快感に溺れてちょっと苦しそうな、でも幸せそうなあの顔を。 彼に惜しげもなく見せてるのかもしれへん。 というより。実際今までに何度も見せてきたんやろうね。 あたしの知らないところにあたしの知らないあんたがいるんやね・・・。
あぁ。もうだめ。これ以上あたしには耐えられへん。
どんなにキレイごとを並べたって。 あんたと肌を合わせるのはあたしだけがいい。 あんたが求めるのはあたしだけがいい。 あんたにとって最愛の存在はあたしだけがいい。
ねぇそうる。苦しくて仕方ないこの思いをなんとかして。 あんたを好きになりすぎて苦しいんよ。 あんたのことをひとり占めしたいんよ。 あたしだけを愛するあんたでおってほしいんよ。 そう望んだらあかん?そんなあたしはやっぱり重い?
ねぇそうる。会いたい。今すぐ会いたい。 あんたにめちゃめちゃに抱かれたい。 あんたの愛だけを信じられるように。 もう余計なことは何も考えられんように。
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