今日は辛い1日だった。 あたしには辛すぎる1日だった。
そうるに会えた。 いつものように一緒にいた。 そうるは相変わらずそっけなかったけど、 それはそうるなりの愛情表現だってことは、 あたしにはもう分かりきっていることだった。 だから一緒にいる空間は穏やかで、 何の問題もないように思えた。
でもあたしは苦しかった。 あたしは今日が何の日か知っていたから。 以前そうるがあたしの前で手帳を開いた時、 そこに書かれた文字を偶然見てしまったから。
見なければよかった。 そうすれば何も知らずにすんだ。 わざわざ知らなくてもいいことだった。 でもあたしは知ってしまった。 そして深く深く傷ついた。
サークル関係のことが終わって、 いつもならめったに履かないスカートを あんたが履いていたこと。 それだけであたしは分かってしまった。 そしてまた苦しくなった。
そうるはまさか思いもしなかっただろう。 あたしが今日が何の日か知っているなんて。 そうるがこの後誰と会おうとしてるか、 あたしが分かってしまったなんて。 きっと思いもしていなかったはず。 だからあたしは一生懸命になって、 気づいていないフリをしてやった。 そうるのために演じてやった。
あたしが知っているということ、 ちょっとだけ気づかせたかった。 気づいたあたしの苦しみを思って、 あたしを傷つけたっていう事実に気づいて、 そうるもきっと傷つくんだろう。 少しくらいそうるも傷ついていい気がした。 傷つけてやりたいとちょっと思った。 でも結局出来なかった。
手帳に書かれていたのは。 「○○○○誕生日」の文字。 あの男の名前だった。
・・・ずっと黙ってきたけど、 実はそうるには彼氏がいる。 認めたくなくて言い出せなかった。 彼のことは闇に葬りたかった。 この世にいない人にしたかった。
そうるはあたしのことを愛してくれる。 愛してくれていると信じている。 あたしはそうるにとって「恋人」と呼べる存在。 そうなんだと信じている。 でもそうするとそうるの恋人は2人いることになる。
男で1番愛しているのが彼で。 女で1番愛しているのがあたし。 そうるにとってはそういうことらしい。 でもあたしはそんなの理解できない。 最愛の人は一人だけでいい。 あたしにとってそれはそうる。 でもそうるはそうじゃないらしい。
それにしたって、いったいあたしは何が悲しくて、 最愛の人の彼氏の誕生日なんていう 知らなくてもいいものを知ってしまったんだろう。 そして何が悲しくてあたしは、 彼に会えることを楽しみにして、 スカートなんか履いている最愛の人を 見てしまったんだろう。 そう思ったらどうしようもなく惨めで、 涙が後から後から頬を伝って零れ落ちた。
ねぇそうる。あたしはずっと苦しかった。 あんたの考えていることが見えなくて、 見えないものを見ようとして苦しかった。 そして今も苦しくて苦しくて仕方ない。 あんたに愛されていると信じたいのに、 見たことも会ったこともない彼の存在に、 嫉妬して狂いそうになってる。
ねぇそうる。あたしほんとは言ってやりたいの。 彼を睨みつけて言ってやりたいの。 今すぐそうると別れてくださいって。 どこぞの女とよろしくやってくださいって。 あたしはそうるじゃなきゃダメだから。 そうる以外の人は考えられないから。 あたしにそうるを返してくださいって。 彼に言ってやりたいの。 そこで彼がNOと言ったら、 あたし彼を殺すかもしれない。 それが結果的にあんたを傷つけることでも、 あたしは彼の存在が許せないから。 「あんたにとっての最愛の人」っていう、 あたしが1番欲しいポジションに、 彼が見え隠れするのが許せないから。
ねぇそうる。あたしあんたにも言いたいの。 あたしだけを愛してって。 彼がどれだけあんたのことを愛してるのか、 あたしにはそんなこと分からない。 むしろどうでもいい。 でもあたしのあんたへの愛は、 言葉では言いつくせないほどで、 あんたを思うだけで胸がいっぱいになって、 あんたを思うだけで涙が溢れてきて、 もうどうしようもないくらいあんたが好き。 そんなあたしの思いとちゃんと向き合ってって。 あたしはほんとはあんたに言いたいの。 ・・・でも言えない。そんなこと言えない。 あんたはきっとそんなあたしは好きじゃない。 重い感情に拘束されるのは好きじゃない。 嫌われたくないから何も言えない。 苦しめたくないから何も望めない。
ねぇそうる。あたし怖くて仕方ないよ。 いつかあんたがあたしのことを捨てて、 彼のことだけ愛するようになること、 あたしは勝手に想像してしまうんよ。 そしてそのたびに涙が止まらなくなって、 ずっとずっと吐き続けてしまうんよ。 あんたのことを失いたくない。 絶対に絶対に失いたくない。 あんたを失ってしまうくらいなら、 あたしあんたを殺してから死にたい。 怖いけれどそう思える時もあるくらい、 あたしはあんたのことを愛してしまった。
ねぇそうる。どうしよう。 もう気持ちのセーブが効かないよ。 聞き分けのいいコになれないよ。 あんたに今すぐ会いたい。 めちゃめちゃに抱き潰してほしい。 彼のこととかこの先のあたしたちのこととか、 もう何も考えられないくらいに。 あたしを強く強く抱き潰してほしい。
ねぇそうる。お願い。 今すぐに抱き締めに来て。 あんたの体温を感じさせて。 あんたの存在を感じさせて。 あたしへの愛を感じさせて。
ねぇそうる。ねぇそうる。 ・・・あたしは祈るように呼びかけている。 |