戯言。
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2004年10月02日(土) おめでとーなお題その3。
いちばんの難産だったお題。
コレのお陰で詰まったんだよなぁ....
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お題その3:[背伸びをする]
暫くして、夕食の準備が出来たというのでダイニングに行く。
素人目で見ても高価だと分かる食器に、彩り鮮やかな料理が盛り付けられていた。
「今日は和食か」
「はい、奥様が是非に、と」
「そうか」
そんなやりとりを横目に、席に着く。
跡部の母も少し遅れて席に着き、和やかに食事が始まった。
宍戸が同席しているからか、跡部もその母も終始日本語で、会話の内容もそれぞれの近況やテニスの話など、宍戸にもついていけるものばかり。
跡部のそういったさりげない気遣いが、とても嬉しい。
そんな和やかな雰囲気を変えたのは、跡部母の一言。
確か、欧風の挨拶の話だった。
「景吾は小さいから、背伸びしなくて済んで助かるのよね」
「.......ち、小さい....んですか?」
こいつを小さいと言い切る、さすが跡部の母。
そう思いつつ跡部を見やると、眉間に皺が寄っていた。
「別に、普通だろ」
ていうか既に日本人の平均身長には達してるんじゃ、そう突っ込む間もなく跡部母の容赦ない一撃が加えられた。
「何言ってるの、小さいに決まってるでしょう。こないだ姉さんのところに行った時だって、皆に見下ろされてた癖に」
「イギリスの基準と一緒にしないで欲しいね」
「何言ってるの、少なくとも半分は私の血を引いているんだから。それにあの人だって背、高いじゃない」
「父さんと一緒にすんなよ。俺はまだ成長期だ」
「それでもあと15cmあるけれど....大丈夫?」
「フン、そんなのまだ分からないだろ」
口を挟む間もなく繰り広げられる舌戦。
この母にしてこの息子あり。自分如きには勝てない訳だ。
珍しく年相応に見える跡部に、自然と笑みが浮かぶ。
が、その直後。
更に深まる眉間の皺と自分を見やった視線に、何か不吉なものを感じた。
そして、案の定。
「だいたい、俺が小さいってんならコイツはどうなんだよ」
いちばん触れて欲しくなかったところを見事に突っ込んでくれた。
さすがは全国レベルのインサイト、弱点は見逃さない。
「お、お、俺のことは別にいいだろ」
反論してみるも、その声に力は無い。
そんな自分に、爆弾を落としたのはやはりというか、跡部の母だった。
「リョウ?リョウはそのままでいいじゃない、かわいくて」
微笑むその顔に、嘘は感じられない。
「...............か、かわいい?」
思わず復唱してしまい、それに跡部が吹き出した。
お行儀悪いわよ、と息子を窘めつつ、第二弾投下。
「ええ、とっても。ずっとそのままでいてね」
どう答えたら良いのだろうか。
はい、と答えるのは男として微妙なものを感じるし、だからといって否定するのも申し訳ないし。
ぐるぐると考えつづける宍戸に、跡部が止めを刺した。
「いいじゃねぇか。俺様がデカくなった暁には、是非とも背伸びして祝福のキスくらいはして欲しいもんだな」
「あら、いいわね。そのままうちに攫って来ちゃいなさい」
「ああ、任せとけ」
いつの間に和解したんだろうか。
さすが親子、絶妙のコンビネーション。
現実をどこか遠くに放棄しつつ、妙に疲れた気分で残りの食事を掻き込んだ。
息子の方には後で絶対復讐してやる、そう決意しながら。
そして夕食後、もう一波乱が待っていた。
食後のコーヒーを飲み終わり、跡部の部屋に戻ろうとしたところを呼び止められた。
「ちょっと待ちなさい、二人とも」
「....なんだよ」
「寝る前の挨拶は?」
「ああ....Good night.」
至極当然のように母親のもとへ歩み寄り、頬にキスをする。
戻って来た跡部がお前も行け、とばかりに視線を送るので、慌てて歩み寄る。
「えっと、その....おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
そのまま引き寄せられ、先ほどのように頬に口付けられた。
やはりここは自分も返さなければならないのだろうか、でもそれはかなり恥ずかしい。
悩みながら逡巡する宍戸に、催促の声。
「リョウは....おやすみのキスしてくれないの?」
「あ、そ、その....」
やっぱり、きたか。
半ば自棄になりつつ、ただの挨拶だ、と念じて覚悟を決めようとしたその時、急に後ろから引き寄せられた。
「その辺で勘弁してやれよ。行くぞ、宍戸」
そのまま手を引かれて跡部の部屋に向かう。
自分の手を握る力は、いつもよりも少しだけ強かった。
[キスにまつわる厳選した5の御題]
お題提供元:「キスにまつわる20の御題」様
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跡部母、暴走しすぎですれいサン....自分でも意外だ。
ていうか、いかにして宍戸さんに背伸びをさせるか延々と考えてみたんだが、いいネタが思いつかない。
んで笑いに走ってみたらこうなってしまった....
大丈夫、次は甘いハズ。