戯言。
2004年04月01日(木)  060.長い夜[テニプリ/跡宍]

※死にネタ痛いネタ駄目な方・宍戸さんはいつでも幸せでないと駄目な方は見ないでね。



9月29日。
いつも忙しかったあいつが、必ず俺の所に帰ってくる日。
そのままあいつの誕生日まで、一緒に過ごす。
それが俺たちの習慣だった。


なのに、あいつは帰って来なかった。
今年だけじゃない、もう二度と。


あいつは俺の所には帰って来ないのだ。


分かってはいるものの、体が、心が探してしまう。
俺を抱き寄せる、しなやかな腕を。
俺を包み込む、暖かな胸を。
俺だけを映す、青灰色の瞳を。
俺だけに向けられる、穏やかな眼差しを。
俺だけに囁かれる、美しく甘い声を。
そして何より、あいつ自身を。


でも、いくら探しても見つかる筈は無い。


もう、あいつは。
跡部景吾は、存在しないのだから。


なのに俺は、まだあいつを待っている。
ひょっとしたら、帰ってくるのではないかと。

俺たちのことを知っている奴らは何かと気にかけてくれ、今日も一緒に騒がないか、と声をかけてくれた。
その言葉に甘えて散々騒いできたが、心に刺さった棘は抜けることはない。
いつもの仲間といつものように騒ぐ。
そんな時も当たり前の様に俺の隣にいたあいつだけがいない。
そのことに愕然とし、恐怖を覚えた。


そして、今。
夜も更けて騒ぎもお開きになり、自分の部屋に帰る。
ひょっとしたら、あいつがいるかもしれない。

「遅ぇぞ。俺様を放って何処へ行ってやがったんだ、あぁん?」

不機嫌さを隠しもせず仁王立ちするあいつの姿が目の前に浮かんだ。
そんな訳は無い。
分かっているのに、足は急ぐ。


息を切らせて帰り着いた俺を待っていたのは、出て行った時と同じように静まりかえった、自分の部屋だった。

「....分かっちゃ、いるんだ」

なのに。

「心が、痛えよ........景吾」

そのままずるずると座り込んだ。
でも、涙は零れない。
あいつと約束したから。
泣くのはあいつの腕の中だけ、そう約束したから。
だから泣けない。
だって、泣く場所はもうどこにも無いのだから。

「バカ野郎、肝心な時にいなくてどうすんだよ....」

力無い叫びが、静かな部屋の中に響いた。


どれだけ時間が経ったのだろうか、窓から明かりが入ってきた。
でも俺の中の夜は明けない。
俺の太陽はもう昇らないのだから。
今もこれからも永遠に続くのは、あいつがいない長い長い夜だけ。


*****

こないだちょい触れた逝っちゃったネタ。
無理矢理お題ちっくにしてみた。
でもこれで終わると悲しいので続く。


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