ヒカリよりも迅く
リュカ



 非日常の極み(深夜徘徊篇)

終電を逃して途方に暮れたのは初めてだった。

日付変更線と夜明けの丁度真ん中あたりで、その日は解散した。
自転車は前日にレッカーされたばかりであり、そのとき一緒にいたともだちの自転車を借りてしまうわけにもいかず、タクシーで帰るには少し高くつく場所に居て、だからといってカラオケやそこらで始発まで時間をつぶす気にもなれなかった。だからとりあえず、途方に暮れていた。
わけのわからない女の我侭で深夜につき合わせるのは申し訳ないので、なんとかするからと云ってみんなには帰ってもらった。三条大橋の真ん中で最後のともだちと別れ、ひとりになったあたしは半ば投げやりにもと来た道を歩き出した。
木屋町で飲む気にもなれず、河原町通を南下して四条河原町交差点を右折した。四条烏丸に着くまでに、少し前方をやはりひとりで歩いていたキラキラのお姉ちゃんは見知らぬ男に声をかけられていたが、あたしは見向きもされなかった。
烏丸通に出るとまた南を目指した。ぞっとするほど静かで人も車も通らない大通りをひたすら歩いた。灯りの落ちた白いロウソクを見上げながら、寝静まった本願寺を横目に見ながら、ただただ歩き続けた。
京都駅前、塩小路のスクランブル交差点をひとりで渡るときは妙に気分がよかった。この街であたしだけ、たったいまあたしだけ、一番大きな駅前の交差点をあたしひとりだけ。
すぅと息を吸い込んで口元で軽く笑い、そして振り向いて、
 世界が終わるときってこんなかんじなのかもな 
なんてことを、少しだけ思った。
駅は静かで、、静かとしか言いたくないくらいの空気がそこにあった。昼間の喧騒などすべてこの闇に呑み込まれてしまったのだろうかと、それくらい静かだった。ただ聞こえるのは、駅特有の何か不思議な ピーンポーン という音だけで。無機質に、無感情に、ただ淡々と鳴り続けていたその音は何かの終わりを告げているようで。あぁ、すべてを呑み込んだのはこの音か と考えたあと、少し可笑しくなった。
南北通路をこれまたひとりきりで縦断した。通路の両脇に転々と眠るひとたちはまるで屍のようだった。転がる屍の間を真っ直ぐ通り抜け、八条口に下りたところでさすがにもう歩く気にはなれず、MKタクシーに乗った。
伏見郵便局の近くで降り、そこから歩いて家に帰った。途中で巡回中のおまわりさんに遭遇したが、「気をつけて帰りや〜」と云われただけで職務質問も何もされなかった。
夜中の街をひとりで歩いていてもナンパも職務質問もされないあたしは、よっぽど地味で健全な女の子に見られているんだろうか。それならそれで面倒が無くていいのだが。
兎に角、家に帰ることはできた。時計の針は4時を指していた。

そもそも自転車をレッカーされなければ、こんな不気味な冒険をしなくてもすんだのだ。スリル満点で楽しかったがやはり怖いものは怖い。シャレにならない話にならないとも云い切れない。ひとりではもういい。
そういうわけで、今日中に自転車を取りにいってこようとおもっている。


2004年09月03日(金)
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