ミドルエイジのビジネスマン
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2009年05月10日(日) グラン・トリノ

グラン・トリノはクリント・イーストウッド扮する主人公がピカピカにしてガレージに置いてある掛替えのないフォードの1972年製大型車だ。何が特別かってフォードの工場で働いていた自分自身が、部品を取り付けた車なのだ。言ってみれば、人生の栄光の象徴だ。妻を亡くしたばかりの主人公が住んでいるのは中西部の、多くの白人が引き払ってしまった住宅地。その隣の家にアジアの山岳少数民族である「モン族」一家が引っ越してきた。その家族の煮え切らない若者を何とか一人前にしてやろうとするというのが映画「グラン・トリノ」のストーリーだ。前宣伝を見て、もっと大作かと想像していたが、実際には意外と地味な小品の部類だ。

床屋や建築現場監督相手に一人前の男同士の会話や交渉の仕方を手ほどきするのも面白いし、マイノリティの若者が差別的な社会の中で身を守るために同族のギャング団に入って逆に身を滅ぼしていくことなども考えさせられる。なかなか感動的な作品で、隣に座っていた中年の女性は最後の方で鼻をグスグスさせていた。

エンドロールの背景になっている湖畔を走る立派な道路を眺めながら、ああ、これは人生の終末に近づいている男の姿と重ね合わせて、かつてはマッチョだったアメリカの戦後史と今の姿を描いているのだと思った。男は朝鮮戦争に兵士として出兵し、13人だったかの敵を倒して勲章を貰い、モン族一家はベトナム戦争でアメリカに味方したため、迫害を恐れて英語も話せないのに難民として渡ってきたのだった。あろうことか、男の息子はライバル日本車のセールスマンとなってより豊かな暮らしをするようになり、孫娘は鼻にピアスをしているような子だ。

アメリカ映画の日本公開までには時間がかかるので、多分昨年9月のリーマンショックの時には既に映画は完成していたに違いないが、色々な人を巻き込んだ俺の人生って何だったんだろうと思う、丁度そのことを今のアメリカも国全体として考えているに違いない。







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