written by 田村 MAILHOME
#職場と鹿
2002年11月25日(月)

雨の強く降る、会社帰りのことであった。

長い坂道を下っていると、道路の脇に黒い大きな影が。なんだろう、大きいな、視線を向けるとそこには鹿が。鹿?

鹿?




不思議なもので、「何で鹿が!?」とはまったく思わず、それよりも嫌なタイミングで姿を現したことに不安を憶えた。「出てくるんじゃねぇぞ」と。

しかし重ねて嫌なもので、普段は分かるはずもない動物の気持ちが、その時は手に取るように分かった。鹿の表情はやる気満々である。出来ることなら見間違いであってくれ。お前と私は解り合えない仲なんだ、分かってたまるか。

案の定、飛び出てきた。轢いてみろと言わんばかりの勢いで。っていうか何故鹿が?しかも狙い済ましたように出てくるんじゃない。その大きさも反則だろう、少なくともスコッチテリアよりはでかい(更に言えばゴールデンレトリバーよりも大きい)。

思い切りブレーキを踏んづけたのだが、若干速度も出ておりフランス娘はなかなか止まれない。直後、ゴスッと鈍い手応えを感じた。

これまで犬猫など動物の類を轢いたことは一度もなかったのだが、デビュー戦からいきなり大物である。残された道は更なる大物を仕留めるか尻すぼみかどっちかしか残されていない。どっちも嫌だ。

などと考えていたら、鹿はとっとと走り去ってしまった。どうも鹿の尻の辺りにぶつかった感じであったが、大丈夫だったのだろうか。骨折ぐらいはしているだろうか、打撲や鞭打ちぐらいですんでくれればいい、もしかして直後にショック死してないだろうか、デビュー戦で殺人ボクサーだなんてゴメンだ!しばらく鹿の安否ばかり考えてしまった。

その後寄ったガソリンスタンドの店員に、「いやあ、鹿にぶつかって」と伝えたところ、「へぇ」と流されてしまった。私の会話のセンスが無いのか、それとも彼に会話を楽しむ気が無いのか。仮に「いやあ、人にぶつかって」と言ったとしても「へぇ」の一言で片付けそうな雰囲気を彼は持っていた。世知辛い世の中である。

って言うか、鹿??

職場の近くに鹿が生息している。発見であった。




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