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毎週楽しみにしている大河ドラマを見ていると 娘が珍しく神妙な顔で近づいてきた。
「ママ、リコーダー教えて・・」
息子からは時々鍵盤ハーモニカの練習につき合わされるのだけど 娘からは初めてお願いされた。
私自身も子供の頃にほんの少しだけオルガンからピアノを 習ったことがある程度(ピアノはバイエルで挫折した)で 特別に上手いわけではないが、鍵盤ハーモニカとリコーダーの指使いくらいなら なんとか子供に教えてあげられる。
娘の練習を始めてわずか1分で、私は愕然とした。 まるで音が出ていない。 いわゆる、ドレミファソラシドでさえちゃんと吹けない。
いくら明日がリコーダーの曲のテストだからって、これじゃあ話しにならない。 まずはドレミファソラシドの音をきちんと出すところから始めた。 高いドから初めてだんだん下の音に下がってくる。 どの音できちんと指が押さえていないかチェックチェック。
しばらくは横でアイロンがけをしながら(この時点で既に大河は終了) 娘の練習を聴いていたのだけど、ふっと気がついたことがある。
息子が練習する時は、必ず何度か大きな声をださなくてはいけない。
「もうできな〜い! もうやめる。」
何度もそんな言葉でリコーダーや鍵盤ハーモニカを放り出す息子を 宥めたり、怒ったりで結構大変なのだ。 だけど娘はというと、確かに相変わらず音はでない。 でもいじけたり腐ったりしないで、黙々と練習を続けている。
だんだん音が出てきたので、まだまだ早いとは思いつつ 明日のテスト曲の練習を始めてみた。
・・・・・・・・案の定、音符の意味も長さも解っちゃいない。 これでは曲にならない。
だけど、黙々と練習する娘がいじらしくて 私はアイロンがけを休んで横にどっしり座った。 息子に鍵盤ハーモニカを持ってきてもらい、まずは曲の全体を聴かせた。 楽譜を見るのも大切だけど、曲を頭で覚えてしまえばこっちのものでしょ。
次ぎに私の演奏と一緒にリコーダーを弾かせ 最後には一人で弾かせる。 ステップアップの練習で、最初の娘の演奏(というのもおこがましい)とは 段違いに曲らしく聞こえるようになってきた。 つっかかってはやり直し、音がはずれたらやり直し おかげで最初の1小節だけは完璧になった(あー、なんて低レベル)。
だけど、 嬉しかった。 本当に嬉しかった。
リコーダーがなんとか音が出るようになったことより 一度も『やめる』と言わなかった娘が嬉しかった。 あー、伝わってます? どれだけ嬉しかったか。 本当に飛び上がって喜びたいくらい嬉しかった。
何度も何度も同じことを言わせる娘に落胆し、 それでもできない娘が悲しくて、 私自身が泣きながら叱ったことが何度もある。 なんでもそつなくこなす息子が対照だから 娘にとってはどれだけきつかったろうと思う。
確かにのろまのカメさんタイプだということは解っていたけれど それが歯がゆくて悲しくて、いつもゴール地点をうんと手前に設定し直して 親の都合で無理やりゴールさせてきた。
だけどゴール地点を設定し直すことは 娘の為にならなかったんだ。 どんなに遠いゴールでも、いじけず腐らず一歩一歩 歩いただろう娘の足取りを、強引に止めていただけなんだろう。
もう寝る時間が近づいたので、練習は終了。 だけど完璧にはほど遠く、『吹けている』というレベルにも達していない。 もっと練習する時間があればなんとか普通のレベルまではいけたと思うのだけど、 なにせ言い出すのが遅すぎる。
お尻に火がつかないと何事も始められないのは 絶対的に私の遺伝であるようだから、これはもう仕方がない。
「明日テストが終わっても、リコーダーを持って帰っておいでね。 また練習しよう。 テストのための練習じゃなくて、最後までちゃんと吹けるための練習。」
そう言った私に、娘は笑顔で「うん」と答えた。 そして
「教えてくれてありがとう」
そんな言葉が付け加えられた。
もうそんなこと言われたら、嬉しくて飛び上がった勢いで 屋根を突き抜けてしまうんじゃないかと・・・
この嬉しさ伝わってます?
娘が自室に行ってから、夫と喜びを分かち合ったのだけれど ふと、夫がこんなことを言った。
「もしかしたらこれって普通のことじゃない? ただ今までうちの娘だけが出来て無かっただけで・・・ いや、させてなかったんだよね、きっと。」
そうかもしれないけれど、嬉しかったのは事実。 最近宿題以外の自学も頑張っていて、 その自信が良い方向に向いてきたのだろう。
明日も娘と一緒にレコーダーを練習しよう。 ぜひとも本物のゴールテープを切らせてあげたい。
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