たそがれまで
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2004年06月20日(日) 友のこと キャンドルナイト


午後9時半をまわってリビングに一人になった。
ふと思い出してリビングの電灯を消した。

「1000000人のキャンドルナイト」
そんなイベントを思い出したから。
6月の19日〜21日の午後8時から10時の間は
電灯を消してキャンドルを灯そうという趣旨のイベント。

う・・ん、さすがにアロマ用のキャンドル一つでは心許ないので
ダイニングテーブルをスポットで照らす照明も一つだけ。

そしてそのスポットライトに照らされたダイニングテーブルの上の
白いデンファレの花が目に入った。

あっそうだ、忘れてた。
今日は朝一番にコーヒーを淹れるんだった。






一年中今日という日のことを考えているくせに、
肝心の当日になってすっかり忘れてしまっていた。

もう1年前になるけれど、この日記でも綴ってきた友人が
天に召されたのが2年前の今日。
先週中に彼女の実家に花を送って、お母さんに手紙を出して
そして当日をすっかり忘れてしまうなんて・・・

彼女のために買った白いデンファレだったんだ。



私は彼女が亡くなる1年前から彼女に逢っていない。
車で10分程の距離に住んでいたくせに、
彼女に逢いに行かなかった。
彼女から聞いていた、彼女の鼻に24時間入っているチューブを見たくなかった。

結核で弱った肺を補った彼女の心臓はだんだん弱っていき、
自分の力だけでは呼吸をすることも困難になり
四六時中酸素ボンベを手放せなくなった。

「なかなか外へも出られなくてね」

そう受話器の向こうで発した言葉も、聞き取ることが困難だった。

電話で話すことも、逢いに行くことも、私には出来なくなった。
山ほど心配はしていたけれど、私には何も出来なかった。

そう、そして、
私自身が忙しさの中でだんだん彼女から遠のいてしまったのだ。
だけど、だけど、お母さんに電話で様子を聞くことだったできた筈。
ほんの5分くらい彼女の顔を見に行く余裕はあった筈。
いつも仕事で彼女の家の近くを通っていたのだから。
それをしなかったのは私。
やっぱり彼女を遠ざけてしまったのは私。


2年前の6月18日、どうしても気になって電話をした。
なかなか繋がらなくて、何度か目の電話でやっと繋がった。
普段は絶対に電話に出ることなどない、彼女の義姉さんが受話器を取った。

「2日ほど前に、又入院したんです。」

義姉さんの言葉で何かを感じた。
遠いところに住んでいる筈の義姉さんが実家に居るということに
とても不安を感じた。

「逢いにいけば逢えますか? 手紙は読めますか?」


当時は既に遠くに離れて生活していたけど、
逢えるのであればすぐにでも行こうと思った。
そうした方が良いという直感だった。

私の問いに、義姉さんは困った様子だった。


彼女のお兄さんから電話があったのは2日後の20日。
悲しい電話だった。




葬儀のために帰省した。
1年以上逢っていない彼女は小さくなっていた。
私の知らない1年という時間を、彼女は頑張って闘っていたんだ。

そして、私が知っていたお母さんより一回り小さくなっておられた。
「待っていましたよ。
 あの子はあなたが来るのをずっと待ってましたよ」

ごめんなさいとしか言えなかった。
逢いにこなかった自分が恨めしかった。

あの時のお母さんの言葉は、ずっと私の中に残っている。
できた筈のことをなぜしなかったのかと
今でも悔やんでいる。



とても時間が遅くなってしまったけれど、
湯を沸かし、丁寧にミルでコーヒー豆を挽いた。
ドリップポットの先から出る細い湯線を見つめながら
一生懸命彼女を思いだした。

一緒に真冬の日本海を見に、夜中にドライブをしたこと。
ラジオに私のバースデーコールの応募をしてくれて、
突然ラジオに電話出演したこと。
私の娘を膝に抱き、ほっぺをプニュプニュ触ってたこと。
突然、「旅に出た」と出先から電話があったこと。

そして、
初めて彼女と出逢った頃の初々しいセーラー服姿。
部活で同じ舞台に立って、なんとも大根的な演技を二人でしたこと。
私服で出かけたら、保護者と間違われた私を大笑いしたあの笑顔。



あの頃彼女のお気に入りだった、我が家のマグカップにコーヒーを注いだ。
このカップを使うのは久しぶりで・・・・・
泣けてきた。


白いデンファレの横に彼女のカップを置いた。
自分のカップにも注いでコーヒーで乾杯。

そしてキャンドルナイト用に灯したローソク。
全国でどのくらいの人がキャンドルを灯していたんだろうね。
まるで彼女のために灯してくれたみたいだと、都合良く解釈しておこう。

久しぶりに淹れたコーヒーの味は、いまいちだったね。
「今日のは苦いよ〜」
そんな声が聞こえてきそう。



とても、あなたに逢いたいよ。




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