七竃雑記帳
桂木 炯



 お母様の歌

お母様と言っても私の母のことではなく

「美輪明宏」さんの事を私はこうお呼びしている

その美輪お母様の、あるCDが手元に・・・
そのタイトルは


「白呪」


読み方は「びゃくじゅ」
今から27年前に発売された音源で
2年前に復刻されたもの
いつも買おうか買うまいか悩んで結局買ったものの
一枚全てを聞き終えるまでに3日程かかってしまった・・・


収録曲は
 1.祖国と女達(従軍慰安婦の唄)
 2.悪魔
 3.ボタ山の星
 4.ヨイトマケの唄
 5.亡霊たちの行進
 6.陽はまた昇る
 7.別れの子守唄
 8.妾のジゴロ
 9.あたしはドジな女
 10.さいはての海に唄う


タイトルでお分かりだと思うが
すごい唄が・・・というか、もう流し聞きなんて出来ない唄が
一気に5曲続いてしまう


1曲目アルバム全体の方向性を表すなど
非常に重要なポイントに「祖国と女達(従軍慰安婦の唄)」
何度か唄われる「バンザイ」は、嘲笑・諦めがにじみ出たもの
そして「大日本帝国バンザイ!」と最後に全身から叩き出される声は
一日に一度聞いたら二度は聞けないほど、様々な想いが重なったもの


2曲目の「悪魔」は高笑いに終わり高笑いで始まる
反戦の唄・・・これは、本当に「被爆国」及びご本人が
被爆された方であるという基礎知識を持たずとも、メッセージの伝わる
シュールな唄


3曲目の「ボタ山の星」ボタ山とは炭坑から掘り出された炭を
選炭したあとに盛り上げた石・質の悪い石炭でできた山の事
曲に入る前に流れる
風の唸りと地蔵和賛(賽の河原で子供が石を積む様と
それを地蔵大菩薩が救うまでの唄)が最大級の悲しみを誘う


いつもこの3曲を一度に聴くことは出来ない私
続く「ヨイトマケの唄」は長く放送を禁止されていた名曲
何がコードに引っかかっていたのかといえば「土方」という表現らしいが
その時代の名称として歌われているものが、どうコードに引っかかるものか
教えて欲しいものだ・・・


唯一アップテンポな「あたしはドジな女」でさえ良く聴くと
ずいぶんと皮肉に満ちたなんとも言えない一曲になっている


この音源を復刻するということは
今、どれだけ「音楽」の力が世に求められているかが
解るかというものだ、薄い意味のないものではなく

誰もが何かを考えてしまう「音楽」
そして、それを素晴らしく演奏し、歌い上げる事の出来る人間
歌唱力も表現力も圧倒的で、こんなに力のある唄を
一体今誰が歌えるというのか?
まさに、一度「死の淵」に立ったからこそ歌える
命の尊さの唄であるが・・・ここまでアナーキーな歌詞を
75年という年代に販売してしまっているということは
どれだけの風当たりがあったんだろう
それでも、この方は、あらゆるものと戦い
戦う全ての人の気持ちを代弁して唄い続けていたのだ
どこまでも、強く・美しく・素晴らしい方だと思う


楽しむための音楽というよりも
聴くための歌
生きるための歌
生きるということが何かを問う歌
聴くたびに、困惑し悩むけれども
背筋を正して、今までの生き方を振り返って
自分の今すべきことを考える
そういう作業ができる歌、深い場所に堕ちることも有るけれども(笑)
だから、中途半端に弱っている、というか
自分の身勝手な理由で弱っている時には聴けない歌
聴いてはならない(失礼になってしまうから)歌


そしてこれに
似て非なるものという状態で聴け無い歌い手さんがいる


「元ちとせ」さん


以前何かの番組で
OLの方が「歌声に癒される」と言った一言に
異常な拒否反応を示してしまったほど


歌が素晴らしいというのも、100年に一人の歌声という
キャッチコピーも納得できる
けれども、いつどこで何度聴いても
背中の筋肉を異様な力で引かれる感覚と
鳥肌に我慢が出来ず、結局1曲最後まで聴けた試しが有りません
その感覚はもちろん「感動」によるものでは有りません


不思議に思っていたんですが
その番組で、奄美大島の方が歴史的に
どのような立場に有り、どうしてその民謡が生まれたかを
聴いて、あっさりと疑問が解けた


沖縄の歌を陽とするなら陰
奥深くに流れる民族の抑圧された歴史の中育った歌


そのバックグラウンドに
知らないうちに反応していたらしいということ
私の感覚がずれているのか
何かに必要以上に敏感なのかはわかりませんが


あの歌い方に対するとき
畏怖でも、感動でも、無論癒しでもなく


「戦慄」


してしまうらしいということ
何に対する戦慄か、見えない歴史の重さと
ハッキリとした民族の血の重さ
多分、本土にのうのうとして暮らしていた自分とは
違う気風の血によって生まれる圧倒的な力に対するもの


自分の身にとって
危険なものだと勝手に体が拒否反応を起こす
というか、魂の嫌な部分を突かれて排除しようとする
そうとしか考えられない拒否反応
歌が素晴らしければ素晴らしいほどダメだということ


一体なんなんでしょうね?掘り下げて考えないほうが良いな
体にあわないものは合わない
嗜好品と同じ、甘いものが嫌いと好きに別れるのと
同じ・・・だと思っていたほうがいいね(笑)



やはり、音楽とは奥深いものです



白い呪いとは
歌によってかけられた、思い悩むという呪い
すなわち言霊の呪い

短絡的に犯罪が起きる昨今
命について考えることが出来ないことが
世に既にかけられた呪いなら
わざわざ自分に白い呪いをかけでもしなければ
正気を保っていられないということか?
そんな事だったら悲しい




今日のR嬢;
疲労がピークらしい

船漕ぎまくり

だから、紙に・・・
ワケ分からない線とか書いちゃうから
ペンは放しなさいペンは!!

というか若いのに2〜3日後に
一番疲れたとか言わない!!若いのに〜!!


2002年06月25日(火)
自己紹介 目録 手紙



My追加