彼のことがどんどん遠くなる。 これが私の望んだこと?
忘れていくのは防御反応かもしれないし、 私が薄情なだけかもしれない。
薄情でもかまわない。 あの辛さから抜け出せるなら。
彼との間に起こった全ての出来事 〜良いことも悪いことも〜 それら全てに現実感がない。
忘れたわけではない。 でも心に触れるわけではない。 ただの事実として、それは私の中に眠っている。
全然思い出さないわけじゃない。 二人で歩いた道とか、一緒に見た光景とか、 そういう景色がフラッシュバックのように眼前に現れる。 何度も、何度も。
驚いた。 今”二人で歩いた道とか、一緒に見た光景とか”と書いた瞬間、涙が出てきた。
それはともかく。
私が思い出すのは、彼とのことばかりではない。
ここ数日、前に付き合ってた人とデートで行った先の風景とか、 10年前に友人と旅したドイツの田舎町の眺めとか、 そういうものが次々と頭をよぎっていく。
それらは不思議と私の心を刺激しない。 私に何も与えない。 ただ記憶の湖が波立って、 底の方から新旧とりまぜた映像が浮かんでは消えていく。
全てにリアリティが希薄になってきている。
人は「思い出に生かされる」とも言えるかもしれないけれど、 今私にとって過去というものは何の意味も持たない。
確かに連綿と今の私につながってはいるけれど、 それは単に過程であって、 今の私にとって何ら価値のあるものでもない。
寂しいけれど。
今を生きなきゃ。
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