いぬぶし秀一の激辛活動日誌

2008年04月17日(木) 小規模多機能型施設 ひつじ雲

 厚生労働省の政策のダッチロールは、高齢者や障がい者の方々にとって迷惑このうえもないものだ。ビジョンがあって変更すのではなく、自らの見通しが甘く予算に困窮すると、なんだかんだと理由をつけて制度の改悪をする。

 自ら考えることを放棄し地方分権とは程遠い自治体職員は『左様ごもっとも』と、厚生労働省の『ご指導のとおり』住民や自治体議会に対して同様の『理由』を説明する。常にこの繰り返しである。

 介護保険では、このダッチロールが制度が新しいこともあって顕著である。当初、彼等は『在宅での介護が困難な状況なので、施設で介護する』と、大風呂敷を広げた。その結果、施設介護のためには、大盤振る舞いをし多くの民立民営の介護施設が建設され、建築業者には感謝されたのだった。

 ところが、この施設介護は、まず金がかかる。次に、物件費が安い地方に多く、人口の多い都市部に少ないという利用者人口とは逆転が起きた。そこで、もういらない、と政策転換。『介護は在宅と地域で』ときた。

 そこで、新たな仕組みとして出てきたのが、地域密着型の小規模多機能型居宅介護事業である。これは、施設に入れないために病院などで『社会的入院』を余儀なくされている高齢者や、在宅で家族が介護している方々を近くで見よう、という取り組みだ。

 大田区でも昨年以来、一施設1500万円の補助金を予算化したが、手をあげる事業者がない。物件費が高いこと、24時間訪問介護の体制と、月額定額利用料(通称 まるめ)のため、サービスと人件費のバランスが取りにくい、ことなどが原因として考えられる。本気で整備するのであれば、区独自の介護報酬上乗せや、経常経費の補填などを検討する必要がある。

 さて、今日は、あるNPO法人の理事さんのご紹介で、このNPOが川崎市に運営する小規模多機能型居宅介護施設『ひつじ雲』を訪問した。川崎駅西口の大規模開発地区を通り抜けると、突然、住宅街になる。その一角に、看板がなければ普通の民家と見間違うほどこじんまりとこの施設はあった。

 この業界では知る人ぞ知る理事長さんからエピソードや苦労話をうかがった。

この施設は、登録人員の上限が20名。利用定員が1日あたり通所10名、泊まり4名。登録してあるメンバーであれば、突然の利用も受け入れるし、利用時間の延長も大丈夫。その際の料金は、月額負担金に含まれているので追加は発生しない。(但し、泊まりのみ1泊1700円追加)

提供出来るマンパワー、スペースも限られているので、あるサービスを利用者で譲り合う体制になっていることがありがたい。

地域密着型の施設は、近隣の口コミが大切で、こことは別の場所にアパートを借りて、会員が会員以外の友人を誘って語れるサロンのような部屋を作った。

小規模多機能型施設が伸び悩んでいるのは、その収入構造にある。成功している施設は、他のサービスを併設している施設か、物件費、人件費の安い地方の施設である。

福祉系の人材は、どのような想いでその仕事についているか、ということが重要で、うすっぺらな気持ちで従事していると、その気持ちは利用者さんい伝わってしまう。

 そして、最後に『まあ、しばらくは赤字でいいと思って始めた』とのお話に、同席した部外の理事さんから『ずっと赤字じゃないですか』と笑って訂正が入った。赤字補填に私財を投入しての運営だとのこと。

 厚生労働省の政策ダッチロールは、現場の多くの善意と負担により支えられていることを痛感した。

 施設から帰る時、ちょうど利用者の女性と目があった。やさしそうなこの方は『あら、もうお帰りですか。』と初対面の私に淋しそうな目をされた。また来ますよ、とお答えすると職員さんが『また来てくださるって!よかったね』と。

 古い民家を改造した施設。決して豪華ではないが、ぬくもりを感じる一瞬だった。また来ますよ!


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