雪さんすきすき日記
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2011年10月26日(水) |
続・「AtoA R.Regulus」のこと |
「AtoA R.Regulus」(B茄子屋)のまとめなどを。
剣と魔法の物語も今は昔。産業革命も世界大戦も経てすっかり伝統芸能となってしまったマジックユーザー。そんなマジックユーザーの中でも飛行系に属する「レグルス」の兄妹が、打ち捨てられた中世のダンジョンに向かうところからこの物語は始まる。ダンジョンの中には人魂やら勝手に動き回る兵器の残骸やらがうごめいており、それら危険なゴミを掃除するのが彼らの任務…だったはずなのだが、謎の人影の襲撃に遭い、遠方からの艦隊射撃を受け、どうやらそれだけでは済まない展開に。果たして今時ダンジョンの底に待っているのは悪い魔法使いか、それとも…。
この作品はマウスとキーボードで操作する全方位シューティング。巨大な空間と化したダンジョンを「レグルス」の能力で飛び回り、敵を倒していく。自機は性能の異なる兄妹から選択。兄は操作しやすく、妹は攻撃力が高いのが特徴。 操作系は全方位シューティングとしては非常に独特。まず、マウスで動かすレティクル(円形のカーソル)が全ての動きの基準となる。自機はレティクルに向かって進み、ショットもレティクルが照準となって弾はそこに向かって発射される。なお、レティクルが自機の近くにあるときは、ショットの代わりにメレーという高威力の近接攻撃となる。 そして、特徴的なのが狙うという操作。この操作により自機からレティクルの方向に向かう一定の視野角に照準範囲が設定され、そこにいる敵にはロックがかかる。この状態で弾を撃つと、”敵の軌道を先読みして”弾が発射される。先読みの精度はかなり高く、単調な動きの敵ならほぼ確実に当たる。 もう1つ特徴的なのが防御のシステム。自機の周囲にはシールドが張られており、普段は見えないが被弾するとその方向にゴーレムのような容姿のシールドが出現して攻撃を防ぐ。シールドが出現している間はその方向からの攻撃は受けることができるが、それ以外から被弾すると自機がダメージを受ける。シールドは攻撃を受けるとゲージが減少するものの、立て続けに受けなければ時間で回復する。ただし、ゲージが無くなると一定時間シールドを張ることができなくなり、非常に危険な状態となる。また、シールドは防御だけでなく、ショット(シールドショット)や遠隔操作による近接攻撃(シールドバッシュ)も可能。いずれも自機に比べて高性能で高威力だが、シールドが出現した状態での攻撃となるので、その間は自機が無防備となる。
と、これだけ特徴的な操作系なので、最初は慣れるまでに相当苦労した。何しろ、EASYでも移動となるとあさっての方向に飛んでいき、こちらの攻撃は全然当たらない。敵の攻撃はこちらの動きを読んだように(実際読んでいる)的確に狙ってきて、そこに誘導ミサイルも加わってシールドゲージはすぐに無くなってしまう。とにかく、全くもってゲームにならなかったのである。最初は1面すらクリアできず諦めようかとも思ったのだが、何故このような操作系にしたのかがどうしても知りたくて何とか続けてみた。 そして、何とか自機をまともに動かせるようになったとき、そこに見えたのは緊迫感溢れる空中戦であった。パッドやスティックよりも自由度の高いマウス操作は、まるでフライトSTGのように大空(ではないが)を翔る躍動的な戦いを2Dシューティングで実現させ、重力や慣性に縛られない自機の挙動やこの作品の世界観ならではのキャラクターや攻撃が2Dシューティングならではの展開を構築する。まるで2DシューティングとフライトSTGの特長を兼ね備えたような内容に感嘆すると共に、この操作系であることにも至極納得した。そして、正直とっつき易いとはいえない操作系を通して製作者のこだわりや妥協の無さが垣間見えたことに対して、その姿勢は正しく同人ゲームならではでありとても嬉しく思った次第である。 さて、操作に慣れると次に見えてきたのが先読みの妙である。この操作系は自由度が高く、自機が移動し続けるということもあって、手動で敵を狙い撃ちをするのがかなり難しい。しかし、照準範囲に敵を収めてロックすればあとは自動で偏差射撃をしてくれるシステムによって、簡易な(慣れは必要だが)操作で躍動感を保ちつつ狙い撃ちの醍醐味を堪能できるようになっている。とはいえ、あくまで偏差射撃なので激しく移動する敵にはそれでも中々当たらないこともあるが、そういう点も含めて偏差射撃で敵を仕留めることの愉悦を感じ取れるであろう。そして、先読みをするのは自機だけでなく敵もまた同様。通常の2Dシューティングでは弾を避けるのに弾道を読むものだが、この作品では自機の進路を塞ぐように攻撃を仕掛けてくるので、その裏をかいて避けるという駆け引きがそこに加わる。弾幕や高速自機狙い弾を避けるのとはまた違う刺激が非常に新鮮であった。 シールドの活用による多彩な戦法もまた大きな魅力。攻防併せ持ったその性能は、引き出すごとにその強さを発揮していく奥深さを有していた。プレイ当初はシールドショットに頼りきりであったが、実はシールドバッシュこそがこの武器の真骨頂。遠方から突っ込ませれば進路状の攻撃を全て無力化させて露払いをし、近距離で出して自機を重ねればほぼ無敵、後ろに出すことで追尾してくる誘導ミサイルは破壊され、果ては偏差射撃同様に動いている敵にも狙って切りつけることまで。もちろん、シールドショットも攻撃の要であり、攻撃力自体の高さもさることながら、自機のショットと合わせての多段攻撃で敵に畳み掛けるのはとても痛快。このように、シールドを使いこなす程に激的に戦いが有利になっていくその過程は、実に楽しいものがあった。
操作に慣れて漸く展開や演出に目を向ける余裕ができたのだが、こちらもまた印象深いものがあった。4面までは比較的穏やかなのだが、5面で物語は大きく動き、そこから最後までは盛り上がる展開が続く。 特にお気に入りの場面は、5面の防衛戦と最終面。5面では、ダンジョンの奥には竜の卵があり、それを守る竜の眷属のアカガネ(自称、正体は伝説級の竜)が妨害をしていたという事の真相が明らかになる。今更竜と遣り合うつもりは無いと引き返そうとするのだが、既に竜が目覚め始めていたことが発覚。力ずくで叩き起こそうとするアカガネに対して、それを阻止すべく奮闘することになる。ここで、竜の卵目掛けて突進してくる敵を迎え撃つ防衛戦に突入するのだが、後ろには大量の誘導ミサイルを引き連れての戦いとなる。後戻りの出来ない状況で敵を倒す機会は一度きりという場面も多く、曲調も激しくなって熱い戦いが繰り広げられる。 最終面では、結局竜は孵化してしまい、飛び去ってしまうところを追いかけて遥か上空で討つこととなる。冒頭で雲海を突き破って登場する竜の姿を初めて見たときは、その迫力ある演出にすっかり魅了されてしまった。そして、広大な空を舞台に巨大で圧倒的な攻撃力を誇る竜との戦いとなるのだが、まずこの状況だけで燃えるものがあり、しかも相手は高速で飛翔しているのでこちらも付いていくのがやっとの状態で、少しでも操作を誤ると敵の攻撃に突っ込んで大ダメージを受けてしまうという緊張感がそれに拍車を掛ける。また、この戦いの最中にアカガネが参戦し、竜は好きなように生きるべきだと主人公に叫ぶ場面は、悲壮感のある音楽と相まって心を打つものがあった。最早過去のものであるマジックユーザーと竜との対峙がどれだけの意味があるのかなどと考えると、何とも切なくなってしまうのである。
この作品で作者が強調している誘導ミサイルについても思うことを少々。とにかく数が多く、その動きも執拗でプレイヤーを苦しめる誘導ミサイルは、終盤では10発以上の尋常でない数に追いかけられることも普通にある。これだけの数になると、画面内を誘導ミサイルが舞い、噴煙がその軌道を描くだけで板野サーカス並の演出となる。プレイヤーはその軌道を読んで、逃げ切る、回りこんで自爆させる、破壊するなどといった対策を講じるのだが、ゲームにおける板野サーカス的な演出はこのようにプレイヤーが避けるという要素を取り入れたものであるべきだと思った次第である。被弾することのないボーナスステージでいくら華麗な演出を見せられてもそれはすぐに飽きるものであり、ミサイルの動きがパターンであれば尚更である。やはり、ゲームであるからにはプレイヤーが能動的に関与できるものであってほしい。 あと、相当数の誘導ミサイルを曲芸じみた動きで避ける楽しさを味わえるのは、この独特の操作系やシステムに依るところが大きいことは言うまでもないだろう。
クリアして追加されるおまけテキストを読むと、このゲームが非常に多くの作品に影響を受けて制作されたことが分かる。その分野はフライトSTGからFPS、アニメ、果てはTRPGと非常に多岐に渡っており、頷くことができるのもあれば理解の及ばないところもあるが、とにかくその広さに驚いた。そして、それらの要素を取り入れつつ、影響を受けすぎて引きずられることなく独自性の高い作品に仕上げられたことに、製作者の表現したいことに対する確固たる方向性を見出すことができる。 それにしても、最初は操作すら覚束なかったものが、一応HARDまでクリアできたことには非常に感慨深いものを覚える。振り返ると、やはり独特の操作系で万人受けのする内容ではないものの、その操作系を通して製作者の表現に対する様々なこだわりがうかがえる、正に同人ゲームならではの作品であった。夏コミではどんな内容か全く分からなかった状態で、ジャケットの右上に小さく書かれた「マウスで動かす全方位シューティング」に何となく物珍しさを感じて購入したのだが、それがまさかここまで素敵な作品であったとは。この作品に出会えた幸運を喜ばしく思うと共に、製作者に大いなる感謝をする次第である。
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