小梅は「先生」の好き嫌いが激しかった。 授業を楽しく思わせる先生は好き。 もちろん興味のある内容を説く先生も好き。 情報をつめこむことだけに固執する先生は嫌い。 教科書を読むだけの先生は嫌い。 負の感情むき出しの先生は抜群に嫌いだった。 まあ嫌いというより「ついていけない」と言った方が正しい。
高校生の時、小梅は国語が一番好きだった。 理系に進んだにも関わらず。 その中で、一際面白かったのが「漢文」。 好きだったと言っても、特別熱心に勉強もしなかったし テストで良い点とってたわけでもない。 いや、面白かったという言い方は不適切で、むしろ 聞いていて気持ちが引き締まった。 漢文の内容はたいてい「戒め」だとか「愛」についてだとか とにかくクサい内容ばかりなのだ(そればかりではないが)。 何においても突出した所のない平凡な高校生、小梅少年は いつも「自分に何が足りないのか」を悩んでばかりいた。 がむしゃらに日々をおくるだけではダメだと感じていた少年は 心を磨く方法として、昔の人が残した戒めに耳を傾けた。 勉強もダメ、運動もダメ、色ゴトもダメ、そんな少年にとって 昔の人が残した戒めや物語は自分自身の生き方に 多少なりとも影響を及ぼしたようにも思える。
そんな漢文を教える先生は小梅にとって数少ない 好きな先生の一人だった。まあ先生が好きというよりは その授業がすきだったと言った方が正しいが。
その先生は特に「愛」についての漢文の授業が好きらしく それはもう感情的に授業を進めた。 今でも印象に残っているのは 「恋は秘めたものが一際美しい」 といった内容のときだった。 たいがいこんなときはみんな「あほだ」とか「イカレてる」 とか言って耳を傾けないが、女性運のない不細工少年にとっては それはそれはいいお言葉を聞いたように思えた。
で、高校を卒業した後に聞いた話によると その先生は小梅が高校2年の時に一緒のクラスだった 背の低いとてもカワイイことで有名だった娘と付き合っていたそうな。 秘めた恋は美しい…って実践してるとは思わなかったよ。
っていうのがこの話しのオチなんだけど。
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