パラダイムチェンジ

2004年06月18日(金) 中田抜きのジーコジャパン

中田英寿が抜けた後のサッカー日本代表が連戦連勝をしているから、
マスコミ的には中田不要論が出てきているらしい。

ま、その前のW杯1次予選で格下のチーム相手にいい所のなかったジーコ
率いる日本代表チームに対して、ジーコ不要論を説いていたのと変わら
ないレベルの話だと思うのだが。

では、果たして本当に中田抜きの日本代表チームの方が強いんだろう
か?
私はそうは思わないのである。

それは、何故、チェコ戦以降の日本代表チームが強く、それ以前が弱く
見えたかについて考えてみればわかるんじゃないかと思う。

すなわち、チェコ戦以降、日本代表が強くなったのはちゃんと練習が
できているからであり、それ以前はまともに練習ができなかったから
だと思うのだ。

どういうことか、チェコ戦以前、日本やアジア各地で試合が行なわれて
いる時、海外組が合流するのは決まって1日前とか、2日前とかだった。
ヨーロッパでハードな試合をこなした直後に飛行機に飛び乗り、時差
ぼけで、コンディショニングもままならないまま、とりあえず連携プ
レーの確認をして、そして試合にスタメンで臨む、そんな事の繰り返し
だったはずだ。

その一方で、国内組は1月以降はオフシーズンで休養もばっちり、合宿
もはって、コンディショニングも、連係プレイもバッチリ合っている
のに、海外組がやってくれば自分たちはサブ扱い。これで面白いはずは
ないだろう。

だからあの選手たちが前日にキャバクラで大騒ぎしたという問題は、
起こるべくして起きたんじゃないかな、と思うのだ。だって、あの7人
の中には海外組に関係のないDF、GKは含まれてなかったような気が
するし。

で、ひるがえってチェコ戦以降、何が変わったのか、といえばジーコが
自信を持ったのと、海外組がオフシーズンに入って、スケジュールに
余裕ができたことが大きな違いだと思うのである。

どういうことか、といえば国内組の奮起もあってか、国内組だけのチー
ム編成でも日本代表はそこそこ勝てるようになってきた。いや元から
それだけの実力を備えていたと思うんだけど、ジーコの信頼を勝ちとれ
るようになった事が大きいんだと思うのだ。

逆に言えば、ジーコはこれが監督初体験であることからもわかるように
自分の采配にまだ自信がなかったからこそ、コンディションに関係なく
中田、小野、中村といった海外組のネームバリューに頼った起用をして
きたんじゃないかなと思うのだ。

でも、これは中田の不調が先か、国内組の活躍が先かはわからないが、
股関節痛に悩む中田をあえて外した試合でもチームが機能することを
知り、ジーコも自信がついたんじゃないかな、と思うのである。


フランスW杯直前、加茂監督からいきなりバトンタッチされた岡田監督
が、W杯予選を勝ち抜き、本戦に臨もうかという時に、評論家の金子
達仁をはじめとして、岡田新監督の経験のなさを問題にする意見が多
かった。
つまり、W杯本戦を勝ち抜く代表監督にはW杯を戦って勝ったという経験
こそが必要なんだと。

当時を振り返って、平尾、古田との対談本「勝利のチームメイク」
中で岡田監督がこう言っている。


岡田 最近、日本代表はアジアでも安定して勝てるようになったけれ
   ど、決して急に日本の実力が上がったから勝てているわけでは
   なくて、選手たちに経験に裏付けられた自信があるからだもの。
   とても勝負強くなった。相手にペースを握られてもあわてなく
   なったよね。昔だったらちょっと攻め込まれるとパニックになっ
   ていたのに。

平尾 僕も、経験は非常に必要だと思います。古田さんとの話の中でも
   出てきたんだけど、例えば「常勝チーム」と「いいところまで
   いくけれどいつも負けてしまうチーム」の差というのは、単なる
   戦力の違いだけではなくて、「自信」があるかないかの差でも
   あるという結論になったんですよね。で、その自信というのは
   どのように育まれるかというと、「経験」からでしかない。

岡田 僕も、代表監督に就任した当初は「監督経験がない」とさんざん
   マスコミに言われた。当時は内心「何を言ってるんだ」と腹が
   立ったけれど、今にして思うと、その「経験」という言葉の重さ
   がとてもよくわかる。

平尾 経験といっても、成功体験、失敗体験、両方あるじゃないです
   か。僕は失敗が非常に重要だと思う。もちろん失敗を「大一番」
   でしてしまうのはまずいけれど、そうでないところでの失敗は
   しておいた方がいいと思うんです。そうすると、「どっからどこ
   までが、やってもいいプレーなのか」という自分なりの尺度が
   確立されてくる。



そして、今回が初監督経験のジーコにも、同じ事はあてはまるんだと
思う。だから、2002年からの1戦1戦、実は今一番経験を身につけて
いるのは、もしかするとジーコ監督なのかもしれない。

じゃあ、やっぱりW杯の本戦では、ジーコ監督の経験のなさがネックに
なってしまうんだろうか?
こればっかりはフタを開けてみないとわからないかもしれない。逆に
言えば日本サッカー協会の川淵キャプテンは、その未知数にかけたと
思うのだ。

でも、一つはっきりしている事があると思う。

前監督のトルシエ時代の日本代表は、「トルシエの日本代表」だったが
ジーコジャパンの場合「ジーコの日本代表」というよりは、「選手たち
の日本代表チーム」になっていると思うのだ。

すなわち、一つの戦術を徹底的に教え込まれ、それを実践する事に重き
を置いているのではなく、より選手たちの自律的な動き、自然発生的な
コンビネーションに重きを置いているんじゃないかなと思う。
つまり、単なる駒ではなく、考える駒に変わってきていると思うのだ。

だからこそ、コミュニケーションの重要性が強調されているんだと思う
し。

そしてジーコが監督1年生であっても、選手たちの中には、W杯2回目、
3回目の選手たちもいるわけで、そう考えるとジーコの目指している
方向は決して間違っていないと思うし、その時に経験豊富で自らも
考え、そして他人を動かす事もできる中田選手は、必要不可欠な選手
なんじゃないかな、と思うのだ。

だから今は自分のコンディションを整える事が中田選手には一番大切な
事なんじゃないかな。

でも、これで秋以降、W杯1次予選で再びコンディションもままならない
まま中田が召集されて、万が一ふがいない成績に終わった時には、マス
コミはこぞって中田を槍玉にあげるんだろうなあ。

でも、中田が本当に必要なのかどうなのかは、同じピッチで戦っている
選手たちはわかっているんだろうし、ジーコもまたその辺の重要性は
熟知していると思うんだけど。


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