今回のネタは「HERO」。ジェットリー主演のこの映画。 時代背景が、中国の秦の始皇帝の時代の話という事もあり、ちょっと楽しみ にしながら行ってみた。
この映画、一言でいうと「中国の底力おそるべし」である。
もともとの物語は、諸説ある始皇帝暗殺の伝説?寓話?を題材にした(そう いえばそのものズバリ、「始皇帝暗殺」なんて映画もあったっけか)、4人 の刺客と始皇帝の物語。
ちょっと、黒沢映画の羅生門の原作にもなった、芥川龍之介の「藪の中」 っぽい話とでも言えばいいんだろうか。 映画を見ているというよりは、舞台を見ているような内容の物語だった。
主人公はジェットリーなんだけど、この映画の本当の主人公はこの映画の 本当の主人公はトニーレオンとマギーチャンじゃないのかな、という印象 を受けた。
この映画、同じシチュエーションを3つの異なる視点から眺めてリフレイン する、というシーンがあるんだけど、そこでの色づかいがとてもきれいなん である。
このアイデアは監督自身のものではなく、衣装担当のワダエミのものだった らしい。でもこのアイデアのおかげでとても画的に映える画面構成になって いると思う。 というよりはこのアイデアがなかったら、もっとわかりにくい話だったかも しれない。
衣装といえば、この映画ではロードオブザリングもビックリの何百人もの 秦兵(実際は人民解放軍が協力したらしい)が出てくるんだけど、一体 ワダエミは何人分の衣装をつくったんだろうか。
その人員動員のすごさとそれによって得られる存在感は、考えるだけで 気が遠くなるほどの迫力だった。
迫力といえば、舞台となる中国の大地もそう。 砂漠地帯や、グランドキャニオンみたいな渓谷、そして本当に波一つない 湖面(これはさすがにCGか?)、そして始皇帝の住む洛陽の城の巨大さ。
CG全盛の今、すべてが現実だとは思わないけれど、それでも中国の国土 って広いんだなーと思わず思ってしまうような説得力のある背景なのだ。
これはいくら日本が背伸びしたって敵わないものかもしれない。 個人的にはこれだけ見てもよかったーって感じかもしれない。 だってそんな景色は観光で中国に行ったって、なかなか見られない風景 だと思うし、「パイレーツオブカリビアン」のカリブ海同様、映画で でも見られてよかったーって感じかもしれない。
あと、本来は売りの一つであろう、チャンバラやアクションに関しては、 すっごく頑張っているなあとは思うんだけど、これだけワイヤーアクション が流行している現代だと、ちょっと見飽きてしまった感じがする。
むしろ、役者さんの肉体がそこにある感じが薄れてしまう(というか、CGに 全部置き換えられても違和感ない感じ)気がしてしまうというか。
で、その一方で私はこうも思うのである。 この映画って、ハリウッド映画がアメリカ文化の輸出を図っているように 中国発の中国の文化のパワーを輸出する意図もあるんじゃないかなあ、と。
これは前にも書いた事だけど、現在VFXの発達のおかげで、ほぼ、監督の 意図する画面作りは可能な世の中になっている。
ただし、それだけ技術が先行した分、今度はその技術力に負けない力を 持った原作なり、脚本が要求される時代になってきているのかもしれない。
だからこそ、ロードオブザリングやハリーポッターが映画化され大ヒットを したし、例えば日本のアニメであるドラゴンボールがアメリカで実写化され るという動きになってきているのかもしれない。
ひるがえって、中国の場合、例えばハリーポッターや日本のアニメのように 全世界で勝負できる物語やソフトというものは現在のところあまりない。
だからこそ、中国4000年?の伝説を引っ張り出してきて、中国にも 負けず劣らず、題材となる物語も、そしてワイヤーアクションなどの技術力 や、ロケ地としても最適な舞台もありますよ、というのをこの映画で誇示 したかったんじゃないのかな。
だからこの映画は、中国の新しい形での宣伝映画だともいえるのかもしれ ない。 同様の意図は、実は後ほど書く「座頭市」でも感じた事でもあるんだけど。
映像の美しさ目当てで、一回は見てもいいんじゃないだろうか。
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