さて、何を隠そう?、実は私は経済学士である。 って、何も威張りちらす事ではなく、単に大学の経済学部を、それも あまり優秀とはいえない成績で卒業しただけの話であるが。
まあ、その後はりきゅうの道に入ったことでも、あまり優秀でなかった ことはわかるかもしれない。 いや、もちろんこっちの方が面白かったからだけど<一応強弁。
で、私がまだ大学生だった頃、世の中ではバブルが崩壊した。 すなわちバブル経済真っ最中の頃に経済学部に入り、バブル経済と マルクス経済の終焉を目にするという、ある意味貴重な体験をした世代 であるわけだ。
で、マル経はひたすら単位取得に苦労した思い出しかないが、バブル経 済に関しては、実はその当時からひそかに?考え続けていた事がある。 すなわち、バブル経済の正体とは、果たして何であったのか。
これから2、3回そんな落ちこぼれ経済学士のたわごとを書いてみたい。 ただしたわごとだから、資料価値はほとんどないと思う。
こんな大それことを思ったのは、先週の4月19日に放送された NHKスペシャル『個人破産〜アメリカ経済がおかしい』を見たことが きっかけだった。
アメリカの2002年度の個人破産件数は、150万件。過去最悪の数 字である。ITバブルがはじけたといわれる2000年以降、それでも アメリカ経済が好調さを維持してきたのは、個人消費の伸びにあるとい っても過言でない。
でも、その個人消費の伸びにも、かげりが生じてきた。
個人消費を支えてきたのは、日本にはないアメリカ特有のクレジットサ ービス、「ミニマムペイメント」と、不動産資産の借り換えである「リ ファイナンス」によるところが大きいとこの番組では指摘している。
「ミニマムペイメント」とは、クレジットカードの請求額の2%程度を 支払えば、残りの支払いは、期限を決めることなく、ずーっと先送りで きるシステムのことである。通常の分割払いと違い、請求額をいつまで に支払わなければならない、という期限はなく、90年代以降、クレジ ットカードの利用が増える上で、大きな役割を果たしてるとされている。
そして「リファイナンス」とは、自分が購入した住宅の不動産価値が あがった場合、その上昇分を担保にして、新たにローンの借り換えを して、価値上昇分の金額を手にしたり、またはより安い金利にして 月々の支払いを減らすこと。 アメリカでは、不動産価格がこの10年上昇し続け、住宅販売も好調な こともあって、住宅の値上がりをもとに新たに借金をする人が増えてい て、それが個人消費の財源となっている、らしい。
あー、そこそこ。いいなー、日本でもないかな、なんて言わないように。
「ミニマムペイメント」に関して言えば、先送りした分の請求額に対し ては、通常よりも高率な利子がつけられている。すなわち、ミニマム ペイメントを利用し続ける限り、一生払い続けなきゃいけないし、借金 の総額も減るどころか、むしろ増えてしまう場合もある。
「リファイナンス」に関しても同様。とりあえず住宅価値が上がってい る間は、その増加分の金額を手っ取り早く手にすることはできるけど、 それも実は借金であることに違いはないから、自分が手にした以上の 金額を、将来的には金融機関に払わなければならない。
で結局、いくらミニマムペイメントを使ったり、リファイナンスで 当座の資金を手に入れたとしても、多重債務におちいり、月々の支払い が滞ってしまえば、ゲーム?は終わり。 あとは個人破産が待っているのは日本もアメリカも一緒である。
そして実はそんなあたり前のことに対して、人々の感覚が鈍くなってし まうところに、バブルの罠が潜んでいるのかもしれない。
それはどんなことかといえば、「今まで経済は成長し続けたんだから、 この先もずっと伸びていくはずだ」という思い込みである。
アメリカの場合、ITバブル、株バブルはもうはじけたと言われている。 90年に2000ドル代だった株価の平均高は、20世紀の終わりには 10000ドルを突破したが、その後は乱高下は繰り返しながらも、 最高値を更新することはなくなってきている。
そして、今まで堅調な伸びを示してきていた不動産価格、住宅販売の 上昇に関しても、そのカーブは段々と鈍くなってきており、FRBの グリーンスパン議長も、この先の価格の上昇に関しては悲観的な見方を している。 すなわち、ずーっと成長していくはず、の経済的な基盤がここに来て その保障がなくなったことを指している。
これとよく似たことが、実は日本でもあのバブル時代には起こっている。 「土地は戦後、いや、日本ができて以来、一度も値段が下がったことは ない。土地ほど確実な資産はない。だから土地は買いだし、土地に対し ては、いくらでも金出しますよ」というのが当時の合言葉。
すなわち、土地を買うために借金に借金を重ねてたって、いつかその 借金分は、不動産価格や株価の上昇分でチャラになってしまいますから、 皆さんどんどん借金しましょう、が当時の常識だったような気がする。
その後結局土地の値段は下がり続け、その当時した借金が不良債権とし て、今も日本経済の首を絞めることになってしまったのは記憶に新しい。 まあ、日本の場合は政府の出した「総量規制」という人災によって 一気に景気が冷え込んでしまった、というような気もするけど。
さて、ここで問題になるのは、 じゃあ、とりあえず借金に借金を重ねても、将来的にその借金はチャラ になるかもしれないから、借金をしてでも個人消費をしてお金をどんどん まわしましょう、という状態は、果たして好景気といえるんだろうか、 という事である。
これはもちろんマクロ経済で見れば、経済の規模が大きくなっている から、好景気、高度成長といえるかもしれない。 でも、個々の資産を見れば、資産より借金の方が大きい、債務超過の 状態に陥りやすいというリスクをはらんでいる事になる。
すなわち、実質的なお金の総量が増えているわけではなく、ただ単に 借金の分だけ、経済が成長しているように見える状態、それがバブル経 済の正体だといえるような気がする。
ここまで考えて、ある文章を思い出した。 養老孟司「バカの壁」 の中の一文。
こういう状態で考えておかなくてはならないのは、日本政府なり、世界 中なりが、経済統計のみを問題にしているということです。経済統計と いうのは非常に不健康な部分を持っている。なぜなら現在のように紙幣 が自由に印刷できるという状況だと、統計そのものが「花見酒経済」に なっているからです。
樽が真ん中にあって、八つぁんと熊さんが担いでいて、八つぁんが熊 さんに十文渡して一杯飲む。次には熊さんが八つぁんに十文渡して飲む。 そうすると、樽酒はどんどん減っていく。この八つぁんと熊さんの金の やりとりは、実は経済統計を極めて単純化したものです。経済はちゃん と動いている。にもかかわらず、ひたすら目の前の酒が減っている。こ れを経済的な発展と捉えていいのか。(略)
ところが実際には、無駄にお金を回し続けないと経済は成り立たない、 という思い込みが世界の常識になっている。実の経済と虚の経済がある ということは常識になっていない。つまり、八つぁんと熊さんの間で金 が回っている、金が回っているのが良い状態だと。
しかし、実はそうではないはずなのです。実体が見えない状態で、欲 のままにお金を回していけば、「経済は好調だ」とか何とか言っている うちに、いつの間にか目の前の酒樽は空っぽ、ということになってしま う。
さて、バブル経済には、二つの面でリスクの高さがあると思う。 一つは、この引用文中にあったように「花見酒経済」に陥りやすい部分。
ただし実際の経済では、ただ単に酒がなくなった代わりに酔っ払った だけ、なんてことはなく、たとえばその分個人消費などによって耐久材 などが手に入るんだから、実際には何か実質的なものを手に入れている といえるとも思うけど、問題なのは、そういう「本業」によって手にい れらる資産より、株や借金によって手に入れられる資本の方が規模が大 きく、簡単である、という事だろう。
これの何が問題なのか。 それは、次の問題によって脅かされやすいということである。 それはすなわち、バブルはいつかはじける、という問題。 と、いうことで続く
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