2003年04月14日(月) |
イラク戦争終戦に関するエトセトラ |
先週、米英軍がバグダッドに侵入して以来、イラク軍の組織的な抵抗と、 フセイン大統領をはじめとしたイラク政権首脳部の姿は忽然と消え去り、 どうやらイラク戦争の武力衝突は、終焉を迎えたようだ。
イラク政府幹部が急に消え去ったわけは、やはり7日のレストラン空爆 でフセイン大統領の暗殺に英米軍が成功したからだろうか。 いずれにせよ、先週でイラク政府そのものは瓦解し、アメリカは当初の 目的を果たしたことになる。
当初の目的? それって、イラクの民衆を独裁政権から解放すること?それともイラク が大量破壊を保有していたことを証明して、この武力紛争の正当性を国 際的に証明すること? いえいえ。アメリカの真の目的は多分、そんなことじゃないと思う。
イラクが大量破壊兵器を持っていようがなかろうが、アメリカに対して 弓を引く反米政権を叩き潰し、大量破壊兵器が使用されるか、テロ組織 に渡ってアメリカが攻撃されるかもしれない、という目の前の脅威を とりあえず取り去ること、なんだと思う。
実際にイラク政府が大量破壊兵器を持っていたかどうかは、アメリカに とっては実はそんなに問題ではない。問題なのは、アメリカに対して反 感を持つ政府が、この世に存在していた事だったような気がするのだ。
なんでそんなことを思ってしまうのか。 それは、あのアカデミー賞で”ブッシュ恥を知れ”とスピーチし、賛否 両論を巻き起こした、マイケルムーアの 「アホでマヌケなアメリカ白人」 の中で、こんな文章を読んだから。
1992年のLA騒動の翌日、争乱がビヴァリーヒルズやハリウッドの白人 居住区にまで迫ったとき、白人は緊急サヴァイヴァルモードに突入した。 ロスアンジェルスの丘の上に住んでいた数千人が逃亡した。数千人は立 てこもり、銃を持ち出した。事態は、多くの人が恐れていた、人種間の 最終戦争勃発の様相を呈していた。
俺はニューヨーク市のロックフェラー・センターにあるワーナー・ブ ラザーズのオフィスで仕事をしていた。ビルの中を噂が飛び交い、誰も が午後1時までに帰宅しようとしていた。ニューヨークの黒人たちにも 「暴動熱」が飛び火し、凶暴化するのではないかと恐れられたのだ。 午後1時、俺は通りに出た。そこで目にした光景を、俺はもう2度と見た くない。何万人という白人が、次の列車に乗ろうと走っていた。映画の 一場面のように、集団恐慌に駆られた人間たちが、ひとつの生き物のよ うに動いていた。
半時間ほどの間に、通りは空っぽになった。恐ろしい情景だった。週 日の、昼日中のニューヨーク市が、日曜の朝5時みたいになっちまったん だ。 俺は歩いて家まで帰った。ペンのインクが切れていたので、近くの文 房具屋に立ち寄った。営業しているわずかな店のひとつだった(ほとん どの店はシャッターを下ろしていた)。ペンと紙を持ってレジへ行くと、 年配の店主が手元にバットを置いていた。それは何のバットだいと俺は 訊ねた。 「用心のためですよ」と彼は答えた。目は油断なく外を見張っている。 「何の用心?」と俺は訊ねた。 「だから、奴らが襲撃にきたときのためですよ」 彼は何も、LAで暴れている連中が飛行機に飛び乗り、ニューヨーク に火炎瓶を投げに来ると言っているんじゃない。彼の心にあったのは― 最後の電車に乗るために歩道を走っていた連中と同様―人種問題は全く 解決などしていないという事実だった。黒人の心の中には、今もってこ の国における黒人と白人の生活の信じがたい格差に対して、言いしれぬ 怒りが潜んでいるという事実だった。レジにあったバットは、すべての 白人が共有する、根源的な恐怖を雄弁に物語っている―遅かれ早かれ、 黒人たちが立ち上がり、復讐を開始すると。俺たちは誰もが、人種差別 の火薬箱の上に座っている。そしていつか来る、その爆発に備えるべき だと思っている。
でも、ちょっと待ってくれ。何だって、「いつか来る」その日を待っ てるんだ?本当にそんな日が来ればいいなんて思ってるのか?燃えてい る家を放ったらかして逃げるより、問題を解決する方がいいとは思わな いのか?俺はその方がいいと思うぞ!(略) 人種問題の解決のために、俺たちが真剣な行動をとる気がないなら、 最終的には誰もが門を閉ざし、半自動小銃で武装し、私設軍隊を持つし かなくなる。それって楽しいかい?
さて、11日にラムズフェルド国防長官様は、こんなことをおっしゃった。
「これも自由の代償だ」−。ラムズフェルド米国防長官は十一日の会見で、 イラクの首都バグダッドなどで略奪が横行し無秩序状態に陥っていること に、開き直りとも取れる反論を展開した。
会見ではイラクの治安悪化に米軍が有効な手だてを打っていないことに 質問が集中。長官は最初は冷静に対応したが、途中からは「自由とは安定 してないものだ。自由な人々は自由に過ちを犯し犯罪に走る」「これで解 放が相殺されたと気にすべきなのか。抑圧されていた方がよかったのか」 と手を振りかざし、まくしたてた。
ほう。ってことは再びアメリカでLA暴動みたいなことが起きても、 ラムズフェルドさんは甘んじて享受なさるわけですな。 それとも自分の敷地の周りには自動小銃を持った私設軍隊を配備して、 何人たりとも侵入させないおつもりなんでしょうか。
さて今回、とりあえずイラク戦争は終わったようだけど、この寸劇を 見させられた私たちが忘れちゃいけないことが2、3ある。
ひとつは、アメリカは今後イラクに武力行使をしたことに対して、 絶対に自分の否を認めないだろうということだ。 そして、イラクから大量破壊兵器が出てこようがこなかろうが、イラク の民衆を圧制から解放した、という美名の下に、自らが行ったことの正 当性を主張し続けるだろう。
でも、それではこれでテロの脅威は取り除かれ、中東が平和で安定した 世の中になるわけでは決してない。
なぜなら、アメリカがパレスチナ問題に関して和平を模索せず、イスラ エルに対してのみ、何十億ドルもの財政援助を続ける限り、アメリカは アラブ世界にとって、平和と秩序を乱す存在でしかないからだ。
少なくともパレスチナでイスラム教徒の血が一方的に流される限り、 中東に真の平和は訪れないと思うし、ライブ会場で発炎筒が炊かれたら アメリカ人は出口に殺到し、意味のない死傷者の数を増やし続ける事に なるのかもしれない。
そんなわけで次回に続く。
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