フジテレビの昼ドラマ、真珠夫人がいよいよ終わるらしい。 とはいっても、全然見ていないんだが、噂によると、あの「愛の嵐」 以来の、グランドロマンというか、メロドラマというか、 結構話題にのぼる作品だったらしい。
さて、真珠夫人、と聞くとピンと来る小説がある。 北村薫「六の宮の姫君」(創元推理文庫)である。 とりあえず、気になった場所を引用すると、
「君なんかはどう、菊池さんのものは?」 「はい、文学全集で読んだことがあります。短編にいいものが多いので 驚かされました。もっと評価されてしかるべき作家だと思います。」 いささか公式的な答えになったが、本音である。 「短編に、というと長編も読んだ?」 「『真珠夫人』は読みました」 天城さんが、微笑んでいった。 「今時、千人に聞いても読んでないわよ。あなたって面白い子ね。」 (略) 「どうだったね?」 「テレビの原作にぴったりの本だと思いました。波瀾万丈ドラマが流行って ますけれど、新しく作らなくても『真珠夫人』をやればいい筈です(略)」
と、気になるところを抜き書きするだけのつもりが、結局最後まで 読んでしまった。やっぱり面白い。 引用した「六の宮の姫君」は、個人的には日本のミステリー小説としては 宮部みゆきをおさえて堂々のNo.1作品なのだ。
文豪、芥川龍之介が遺した言葉の謎を、彼の作品、当時の交友録から、 紐解いていくという、ミステリー。
何故、この作品が個人的No.1かというと、普通、ミステリーの舞台は 作品の中にしかなく、その足跡を現実の私たちがたどるのは不可能 なんだけど、この作品の場合、もしもたどろうと思えば、現存している 本でたどれるかもしれない、っていう点が、面白い。
もしかしたら自分も名探偵になれるかもしれないと思えるってのは、 個人的にはポイントが高いのだ。
蛇足ながら付け加えると、「六の宮の姫君」は。「空飛ぶ馬」から続く 「円紫さんと私」シリーズの作品なので、まだ読んだことのない人は 「空飛ぶ馬」から是非どうぞ。 女子大生である「私」の身の回りに起こる不思議を解決していく、 このシリーズは、梅雨のこの時期に読むとちょっと爽やかな気分に なれるかも。
菊池寛については、実は小さい頃、他の本でも出会っている。 長谷川町子著「サザエさんうちあけばなし」(姉妹社)。漫画「サザエさん」 の作者である、長谷川町子の自叙伝でもあり、TV小説「マア姉ちゃん」の 原作本でもあるこの本にも、菊池寛は登場する。
マア姉ちゃんであるところの、長谷川町子の姉を挿し絵書きとして雇うのが 菊池寛。漫画の描写では、和服に腕時計を3つくらいはめて、いつも汗を かいて、忙しそうにしている姿が印象的だったので、覚えている。
あ、一応『真珠夫人』についてもう少し付け加えると、作者は雑誌 「文藝春秋」を創刊し、芥川賞、直木賞を創設した菊池寛。 お話的には、将来結婚を誓いあった二人が、彼女の結婚で引き裂かれる んだけど、彼女は2年間、自分の貞操を守ることを彼に約束し、 その事が原因で様々なドラマが引き起こされる、という話。 ってはしょりすぎだが。
今は亡き、ナンシー関さんの雑誌の連載は好きでよく読んでいたんだけど、 『真珠夫人』も、亡くなる直前の週刊文春で取り上げられていた。 週刊「文春」で、菊池寛原作の『真珠夫人』を取り上げるのもすごいなあ と感心した記憶がある。って考えすぎかも。
などと思っていたら、『真珠夫人』の後番組は『新・愛の嵐』であるらしい。 ここは一つ、ナンシー関さんに、それでいいのか、東海テレビ、などと ぜひ、つっこんでほしかったポイントである。 つくづく惜しい人を亡くしたものだ。
|