掛川奮闘記

2008年11月13日(木) 081113_銀座でミツバチを飼う〜ギンパチプロジェクト

 今日はローカルデザイン研究会の勉強会に出席。話題は、銀座でミツバチを飼っているというお話。

 講師は(株)紙パルプ会館の常務取締役という肩書きの田中淳夫さん、私とほぼ同年代の方です。




 この田中さん、3年前までは養蜂や農業などに全く興味がなかったのですが、ある養蜂家が訪ねてきて、「ビルの上で蜂を飼わせて欲しい」という要望を聞いてから人生が変わってしまった方なのです。

「銀座で養蜂?何をバカな」最初はそう思ったそう。ところがいろいろ話を聞いてゆくうちに蜂についていろいろなことが分かってきたのです。

 まず、蜂は環境指標動物と言われるくらいとてもデリケートな生き物で、農薬を使う農地では死んでしまって養蜂など出来ないのだそう。そして大規模な農地ほど農薬を使うので養蜂が向きません。

 また養蜂は作物や樹木の花から蜜を採取するというものなので、農家に農薬を使わないで欲しいという要求など出来ずにおとなしい農業であるとも。そしてそれだからこそ逆に銀座のような場所であれば農薬を使わないので蜂にとっては都合がよいのだそう。
 そこで銀座の高さ45mのビルの屋上で蜂を飼い始めたのだそうです。

 

 では一体何から蜜をとるのでしょうか、またそれほど取れるのでしょうか。

 実は蜂は4km四方が行動範囲といわれているのですが、この範囲の中には街路樹や桜並木、さらには日比谷公園や皇居があって、実に多様な花々が咲いているのだそう。銀座のハチミツは皇居から下賜されているといえるかも。

 最初は「50kgも取れれば良いですね」と言われていたのが、初年度の収穫が何と150kg、翌年は290kg、三年目は440kgにもなり、これは日本全国のハチミツ収量の0.02%に相当するのだそうですよ、それも銀座で!

 試食させてもらったハチミツは、季節によって桜のハチミツ、モチノキのハチミツ、など採取する植物によって風味が全く違います。でもすごく香りが良くて幸せな気分になりました。

 

 銀座のミツバチなので愛称は「GINPACHI」。ちょっと格好良いでしょ?

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 田中さんたちは取れたハチミツを自分たちだけで消費するのではなく、銀座の活性化につなげたいという活動を始めました。

 銀座のハチミツなので、「ギンパチプロジェクト」と名付け、取れたハチミツを銀座の老舗のお菓子屋さんやホテルなどに提供し、銀座で取れたハチミツを使ったお菓子や料理、カクテルなどが出来、これがまた話題を呼びました。

 蜜蝋も取れて、これは銀座の協会に提供してクリスマスの夜に炎を灯しました。

 田中さんたちは次第に食とは何か、環境とは何か、という問題意識が拡がり、さらにはシェフやバーテンダー、ケーキ職人など、地域から多くの人たちが面白がって参加してきたことで、関係性が膨らみ新しいコミュニティが作られていったのだそうです。

 田中さん自身、「大人が真剣になって遊ぶという姿を見てもらうことは子供達への教育にも良いことだと思います」と言います。

 この話を聞きつけて、品川区や多摩地区などでもミツバチを飼うプロジェクトが始まりつつあるそうです。ミツバチが取り持つ縁で、食、環境、人間の新しい関係が誕生し、素晴らしいムーブメントになりました。

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 いまやこのハチミツは東京中の話題になり、都内の有名なホテルからも引き合いが強いのだそうですが、田中さんとしては「まずは銀座で使ってもらうことが第一ですから、どんなに有名なホテルだからといって優先的にお譲りすることはありません」とも。あくまでも地域と地域のイベントにこだわっています。

 ちなみに養蜂で使われる蜂の多くは西洋ミツバチなのですが、これはダニや病気が蔓延して業界の問題になっているのだそう。これに対して田中さんたちは、従来飼うのが難しいと言われた在来のニホンミツバチを飼う技術を確立したのだそう。ニホンミツバチはそうした病気などに強いので、新しい可能性にも期待が集まっているそうですよ。

 一貫しているのは、生産することが幸せだ、という作り手が楽しむ姿勢です。

 ともすると機械的に種をまいて、機械的に栽培し、大手の流通に降ろすことでお金にはなるというのが大規模農業の姿ですが、この作業中心の農業をどうやって作り手の幸せにつなげるかという観点で、非常に面白く思いました。

 全国どこでもできそうですよね。あとはやるだけです。


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こままさ