店主雑感
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2002年08月13日(火) 進化

 地球の生命進化には大きく分けて二つの流
れがあるらしい。

 複雑化を避け、身軽で素早い環境適応能力
だけを武器に過酷な自然淘汰を乗り切った、
ウィルスのようなものと、その対極に位置す
る、多細胞二倍体有性生殖による複雑精緻な
進化の道程を歩んだ人類とが、その両極であ
るらしい。

 そして多細胞進化の道を選んだ生き物は、
その進化の過程で獲得し、一度でも有効に機
能した資質は、その後も捨てることなく全て
持ち運ぶようプログラムされている、という。

 有効に機能しなくなったものなどさっさと
捨てれば良さそうなものだが、決して捨てな
いのはいつ環境が激変しても困らないように、
だそうだ。

 一度でも役に立ったものを何で捨てる必要
がある、将来のためになんでもかんでも一切
合切とって置こう、という主義である。

 だとすれば、人間の内部にも不気味な過去
の遺産がいっぱい眠っている、ということで
ある。

 人類が太古以来、進化の過程で獲得してき
たものを想像してみると、これはもうそうと
うに怖い。

 なにしろ厳しい環境の変化や並みいる強敵
をものともせず、地上に出現するやいなや、
あっと言う間に、それもぶっちぎりの独り勝
ちである。

 今やこの惑星で人類のお情けなしに、我が
もの顔で繁殖しているのはゴキブリくらいの
ものである。

 人類は地球上最も狡猾で、貪欲で、残忍冷
酷な好戦的生物であったからこそ、地球の覇
者となることができたに違いない。

 一方で、そのあまりにも凄まじい暗黒面に
歯止をかけるため、理性や自制心、愛や優し
さ、といった資質をも獲得するにいたった、
と考えれば、一人の人間の裡に悪魔と天使が
共存していることの説明もつく。

 過去に限らず現代においても、危機に際し
て必要とあらば、いくらでも冷酷非情になれ
るのが優れたリーダーの資質でもある。要は
不必要な場面で、見当違いな資質が暴発しな
ければ良いのである。

 人間の心の深奥を覗き込んでは一々大袈裟
に吃驚してみせる必要はない。たとえそこに
どんな怪物が潜んでいようと、静かに眠って
いるぶんにはなにも問題は起きない。

 人間の細胞数は約60兆個あるとされてい
るが、はじまりはたったひとつの細胞にすぎ
ない。そのたったひとつの細胞が分裂を開始
し、ある段階で分化、つまり細胞の特定目的
への決定化が起こり、その後、全身のありと
あらゆる部分を形成するため、各々が必要な
形の細胞へと変化増殖してゆく。

 60兆個に達した細胞はその後80年から
100年もの間、人間を生かしておくために、
各々特定目的を果たし続ける。

 分化の進んだ細胞は不可逆的で特定目的を
果たす以外のことをしないからこそ、生命が
保たれるのであるが、ときには何らかの原因
で反乱を起こし、異常細胞を増殖しはじめる
こともある。当然ながらその場合、生命はた
ちまち危機に瀕する。

 近年のクローン研究によって分化の進み切
った体細胞にも可逆性のあることが実証され、
この細胞内遺伝子の眠りを人為的に醒まそう、
という試みが平気で行われている。しかし、
そんな人間の不遜な生命操作に対して、神の
鉄槌が下る様子はいまのところない。

 クリエーターが何者であるにせよ、宇宙の
本当に驚嘆すべきてんは、その無為渾沌にあ
る。


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