□■ あたしのお教室 ■□
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はい、こんにちは。
今朝、家族が出て行ったあと、包丁を使っていて、ふと昔のことを思い出した。たしか8歳の頃。。
当時、母は病弱であたしが学校から帰るといつも横になっていた。 その頃のあたしは、友達の誘いを断って、母に代わって夕飯の支度をしていた。
「小春ちゃん、お米を洗って欲しい。」 「うん。軽量カップで何合?」 「そうね、今日は4合にしようか。」 「すりきり4合ね。」
大きな桐の米びつに頭をつっこんで、ちょっとべこべこになった軽量カップで すりきり4合をちきんと計り、ざるを出してきて、ごしごし洗った。
「あんまりごしごし洗うと、お米の粒がつぶれるからね。」 「あっ、そうやった。」
その頃は電気釜ではなくて、ガス釜だったので、点火するのが少し怖かったな。
お米を洗うと、つぎはおかず。 「お魚をおばあちゃんが買って来てくれているから、それを包丁でさばいてね。」 「うーん、お魚はいややな。手が臭くなるし。。。でもいいや。どうやるの?」 「まず包丁の背で鱗を落として。」 「うん、やってみるね。・・かーさん、鱗が飛び散るよー。」 「ゆっくりやってごらん。鱗が下に落ちるようにするの。」 「あ、うまくいった。」 「じゃ、お魚のおなかの下のところに穴があるでしょ。そこから包丁をいれてね、 中身を出して、おなかの中を綺麗にするの。えらのところにある赤いぎざぎざしたものもとるのよ。」 「うわ〜〜〜、すごいものが出てきた。」 「あはは、がまん、がまん。」 「かーさん、出来たよ。」 「それじゃ、布巾で水分をとってね。それからお鍋をだして、お醤油、お砂 糖、お酒を適当にいれて、お水を少しいれて、生姜も刻んでいれてね。沸騰 したら、そこにお魚をいれてね。」 「うん。。」 「すぐ吹き零れるから傍についてないとだめよ。」 「うん、わかっとる。。」
そうやって、おかずがひとつ出来た。 お味噌汁も、ほうれん草のおひたしも、そうやって、少しずつ習った。
姉も妹もいたけど、料理をするのは、いつもあたしだった。 母に言わせたら、真ん中の子が一番役に立つんだって。 そうやっておだてられて、お料理をするのが好きになった。
受験勉強をしている時に、時々父が起きてきた。 台所でごそごそやってるから「おとうさん、おなかすいとる?」と聞くと 「うむ。。」と答える。 料理なんかしたことないくせに、何を作るっていうんだ。(笑)
「チャーハンでいい?」 「おう、すまんな。」
勉強の途中に料理をするのは、気分転換になった。 はい、と作って置くと、父は「それじゃ、いただく」と静かに食べていた。 食べ終わったら、自分の部屋にいって、財布を取り出し、500円くれた。
「500円ぐらいの価値はあったぞ。」
ははは、何もお金ださんでも、と思ったけど、ありがたくいただいた。 それが父の精一杯のお礼の気持ちだったんだろうから。
嫁に行くことが決まって、嫁入り道具を少しずつ集め始めた。 出発の前日、父が、布に巻いたものを持ってきて差し出した。
「ほれ、包丁をひとつ作ったから、持って行きなさい。」
家庭用品など一度も買ったことがなくって、母をほとほとあきれさせていた父が どうやって金物屋にいったのか。
それを考えると可笑しいやら、うれしいやら。 嫁入り道具の下のほうにしっかりしまって、持って行った。
・・・・・・・
その包丁は今でも健在。 それだけは毎年、プロに砥いでもらう。 時々、出してみる。 ぴかぴかの刃に、あの頃の父の顔が映っているみたいだ。
ほんとに、切れ味の鋭い、怖い父だったな。(笑)
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