□■ あたしのお教室 ■□
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はい、こんにちは。
こないだから続けて元生徒ちゃんのYくんに会った。 こっちも車だし、Yくんもトラックの助手席に乗っているから、ちょっとすれ 違いざまに顔を見る程度なのだけど。
今までに、あたしと大ゲンカしたり、根性なくてやめていった生徒ちゃんは 数人いるけど、Yくんが止めたのは違う理由だ。
7年前に里に転居した時に、転校生である兄くんを一番に受け入れてくれた のはYくんだった。 毎日、遊びに来てくれて、いっしょに宿題をしたりゲームをしたり。 勉強をみてあげているうちに、Yくんの母親が「ちゃんと教えて欲しい」とい うので、それがお教室を始めるきっかけの一つにもなった。
釣りの好きなYくんのご一家によくうちの二人は連れて行ってもらったし、 あたしもご一緒したり。当時は家族ぐるみのお付き合いもさせてもらっていた。
6年生から同じ机で勉強を始め、中学に入り、子供たちはだんだんと大きく なっていった。
中3になりかける頃、Yくんの弟がうちをやめた。理由は授業料が払えないと いうことだった。実は、その数ヶ月前から、二人分の授業料は未払いのまま だった。人の噂で、父親がアルコールで肝臓を壊して入退院を繰り返してい るとのことだった。
「せめて長男のYは公立高校にいかせたいので、しばらく通わせて欲しい」と いうのが母親の頼みだった。
あたしは、ほんとは「授業料なんていつでもいいんですから。」と言いたか ったのだけど、母親にしてみたら、「二人もただで見てもらうわけにはいか ない」と思ったんだろうね。 「そうですか。。。残念です。Yくんの授業料はYくんが大人になってから返 してもらうから、気にせんとってください。」と返事した。
Yくんは色んな思いとか悩みとかがあっただろうが、体育祭では応援団長をし て、頑張って中学生活を送っていた。 しかし、うちに来るときの表情がだんだん暗くなって来ているのは感じてい た。きっと、あたしに気を遣っていたんだね。 母親が近隣に頭をさげて、お金を借りているのも知っていたみたいだし。
結局、Yくんは来なくなった。 兄くんの話では、学校もあんまり行ってないということだった。
それから数ヶ月後に、Yくんの父親が亡くなったと聞いた。 退院後もアルコール三昧で、ある日救急車で運ばれてそのまま亡くなったそ うだ。・・胸がずきずき痛んだ。
その後、中学の体育祭に遊びにきている高校生のYくんにばったり出あった。
「久しぶり。お父さんのこと、残念やった。。。Y,大丈夫かい?」 「うん、全然なんともない。なにも全然かわらんし。。。」 「・・・そうか。大変やけど、頑張ってな。」
そんなありきたり言葉しかでない自分が悔しかった。
Yくんは、まもなく高校をやめて働き始めた。 近くの土建屋さんが雇ってくれたらしい。
Mくんから時々、噂を聞く。
「あいつ、すっかり真面目風になって、頑張って働いてるで。 一家の大黒柱やもんな。かーちゃんもパートで一日働いてるけど。」 「ほんまか。。よかった。。なんせ、せんせとこの生徒ちゃん1号やからね。」
17歳にして、一家を背負い、弟妹の面倒を見る。 こんな子供も、不思議の里にはいる。
洋室・和室
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