「疲れたときはこれを食べるといいよ」と、 閉店後にうすいさんがエプロンのポケットからチョコレートを出した。 苺の甘い香りのする甘いチョコレート。
だだをこねた子供をあやすみたいに、 うすいさんはわたしを癒してくれるな、と思った。 ほんの小さなチョコレートが、「うすいさんがくれた」ことで 何倍も美味しく感じて、不思議と笑みが零れた。 魔法みたい。
わたしはそうやって、癒されてばかりで、与えてもらってばかりで、 わたしはうすいさんを癒したり、うすいさんに何かを与えたりできているんだろうか。 偶に本人に直接聞くこともあるけれど 「今のままで十分」と笑顔で返されてしまう。 癒すとか、物ではない何かを与えることとか、 目に見えないものは与えられた本人にしかわからないから、 わたしがうすいさんに与えてもらっている、かけがえのないものたちを うすいさんはわかるはずもないように。 わたしの知らないところで、 わたしはうすいさんに何かを与えているのかもしれないけれど。
こんなちっぽけなわたしに、何が与えられるんだろう。
結婚が間近になりつつあるのに、 未だにこんなことを考えてしまう。
それはもう、開き直るしかないのか。 「あなたには、わたしが必要なの!」と。
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