訳有って実家へ帰る。 何度電話しても母親が出ないため、電車を降りて途方にくれた僕は バス通りを歩いた。
通いつめていた楽器屋は本屋になっていた。 角の眼鏡屋は定食屋になっていた。
家に近づくにつれ、何度も電話を入れたのだが埒が開かず、 遠回りしてかつて通学路として歩いていた道を行くことにした。 もう10年以上通っていない道だ。 ずっと一緒に遊んでた友達の家の表札が違うものになっていたり、 バスの路線が大きく変わっていたり、変化を感じる。
通学路の途中にある家の庭のオレンジはそのままだった。 暗くてよくわからなかったが、その隣には椿の木があるはずだ。
小学生の頃、アゲハチョウの幼虫を見つけた僕は 虫かごに入れて学校で飼い始めた。 餌はオレンジの葉。それを朝の通学路で調達していた。 でも植物をよく知らなかった僕は、次の朝から間違えて椿の葉を与え続けた。 幼虫は、最初の日にあげたオレンジの葉ばかりを食べていたので、 僕はそれを取り上げてしまった。
しばらくして、幼虫は小さくなって死んでいた。 僕は小さな命を自分の不注意で失わせてしまったことにショックを受けた。
あのアゲハチョウの羽根は僕がもいでしまったのだ。 僕はその罰を今受けているのではないか、いまでも時々思う。
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