危険域。 Master:(c)夏目

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2005年06月13日(月) ■
夏目 ― 闇ですとも ―








 夢枕さんの「陰陽師」を読んでいると、あまりに堂々といちゃつかれさすがにどうしようか困る。
 話の大体は晴明と博雅ののんびりとしたデート、というか気分的にはもう夫婦の会話のようになる。
 とにかく、晴明は博雅を褒めて褒めて褒めて「いい漢(おとこ)だなお前は」とことあるごとに言うわけである。まさに口説いているわけだ。
 そして博雅はことあるごとに晴明の家を訊ね、相談をし、頼るわけである。この博雅、朝臣の位を持つ天皇家の血筋の殿上人なのにも関わらず、夜にふらりと「ひとり」で出かけ、晴明を訊ねる。
 逢引か、逢引なのか…と読めば読むほど思う。女に通うことなく晴明の家に通うのだ。
 「待っていたぞ」と出迎える晴明に、「何故俺がくるのがわかったのだ晴明」「橋の上で呟いていたではないか」「式か」「さあてな」という会話をあきもせず繰り返す二人なのだが、夏目は晴明が式を使って博雅が自分の家に来るように仕掛けている気がしてならない。寝ている最中に「博雅よ、晴明の家を訪ねろ」「晴明」「晴明だ」「訪ねるのだ」とか式に囁かせているわけである。博雅は素直で鈍い性質だから、この手のことをされても仕組みには気付かず、素直に男の家を訪ねてしまおう。更に、博雅が他人から晴明宛に頼まれる事柄は全て晴明がそう仕組んでいるのではないかと思うのだ。
 毎夜の如く晴明の家で酒を酌み交わす二人。家の中には式しかおらず、人はいない。
 来訪者は全て晴明が管理し、会いたくなければ会わない。まず以て家の中に入ってこれない始末。
 知らず博雅がいる時に邪魔なものが来れば家にたどり着かないように細工していそうだし、又、博雅狙いの人間ならば「この晴明のものに手を出そうとは片腹痛し」とか思いながらわざとふたりで暗闇の中二人で仲睦まじく酒を酌み交わしている最中に来訪させ牽制したりと、彼は何かと企みが多いような気がしてならない。
 笛においての博雅の腕は史実に残されるように相当なもので、晴明、何かにつけてこの腕を褒める。褒める。褒める。そしてやはり最後には「お前はいい漢(おとこ)だな博雅よ」というのである。
 大体、晴明の管轄の仕事に博雅をわざわざ同行させる必要性はほとんどない。この笛の音なくしても晴明の腕ならばひとりでどうとでもなるであろうに。ただ愛しい人と片時も離れたくないという晴明の子供じみた我が侭に、彼が適当な理由をつけて博雅を同行させているだけだ。
 読めば読むほどいちゃいちゃしているこの本、ついに耐え切れず母にこう言ってみた。

 「これ読んでると博雅と晴明のいちゃつきぶりが恥ずかしいんだけども!」

 母は平然とした顔でこう答える。

 「昔の人は素直なんだよ。素直だから好きなら好きって言うし、かっこいいならかっこいいって言う。だから晴明は博雅のことを好きだってこと隠そうともしてないでしょ」

 どう捕らえればいいのかわからないけど母にさえ公認のカップルにされてしまっているこの人達…確かにこんな衝撃的なシーンがある。
 「呪」の話をしている晴明は自分の出生について様々な噂があるのだと言いはじめる。男については狐の子だとか実は天皇家の血筋だとか物語によって色々と秘密が違うわけだが、まあそんな話を酒を口にしながら博雅に言っていた。
 そこで素直で真面目な博雅、決してその話を冗談や気味の悪い話とはせず真っ直ぐに晴明を見てこのようなことを言うのだ。

 「俺はお前が何であってもお前が好きだ、晴明」

 告白…!と夏目が慌てたのは言うまでもない。
 別の折りでは勿論晴明が博雅に対して「俺はお前が好きだ」と言っている。
 もう互いに想い想はれの相思相愛の仲。それ以上いちゃつくな…と止めることも敵わない。本も心なしか熱くなっているような気がする。恋の炎が燃え上がるわけだ。
 そして身分高く真面目で、楽に優れた博雅が女性にもてないはずもない。けれどこの博雅、とにかく鈍く、歌の判読が中々できずに時折晴明の家を訪ねてはその解読を手伝ってもらっていたりするが、それの大体は事件絡みの手紙であったりするから、ここにも晴明の思惑が潜んでいる気がしてならない。
 博雅から女の名前が出るだけで態度が変わる晴明、幾ら陰陽師としての腕が良かろうがこの後百を超える歳まで生き続け、一説によれば三代の天皇に使えたり五代の天皇に仕えたりと人外な力を見せ付ける彼も、所詮はただの「男」であろうと、まあそんな話なわけである。

 「おや晴明、桜の花びらがいちまい、落ちつるよ」
 「そうだな」

 なあんてのんびりとした会話がなされる平安の世、闇も多く鬼が闊歩する暗黒時代、それでも華やかな時代であったのはこうした男がいたからだろうかと、そんなことを思う。






 本日の授業
 ・日本文化論入門

 最澄のことについて触り程度にならしたわけですが。
 まあ教授が午後から用事あったようで「俺もう準備とかしなきゃならないからほんとは授業なんてやりたくないんだけど、でもやんないと教務課の方から文句言われるし、他の時間の補講とかやりたくないから取り敢えず三十分くらいやる」と言っていまして、うちの大学の人は適当なのが多い。
 さて、この最澄は言わずと知れた比叡山延暦寺、日本天台宗を開いたお坊さんなわけです。12歳で出家、18歳で得度し、19歳で比叡山に山ごもりし自ら出世街道から外れるも、類稀なる才能を見込まれ天皇に仕え、その後唐へ入学し、仏教の様々な面を学び、日本へ帰国し、天台宗を開くとまあ、簡単に言えばこのような人生でして。
 教授がふと、昔の文化論所授業での面白話をしはじめた。急いでいるんじゃないんですかあんた。

 「今でこそ、学校で独自のテキストを発行しているから授業もしやすくなったわけですが、まあこの文化論や仏教学って言うのはとにかく特殊な用語が多いものだから、口だけでは伝えられない。かといって板書するには多すぎるから、このテキストは本当に重宝しますよ(でも実際開いている人なんていないよ)。で、数年前の卒業生にねえ、こんな人がいた。
 その子はかわいい子でね、そして真面目だった。授業中も私語なんてせずに静かに授業を受けていて、授業が終わっても質問に来るような子で、僕はあんまり生徒の顔なんて覚えないんだけど、その子だけはすぐに覚えた。とにかくいい子だったわけ。
 その年の前期の試験のとき、僕はこんな問題を出した。“最澄の人生について書け”とね。彼女は真面目に箇条書きをしていって、僕はそれに一つ一つ丸をつけて行ったんだけど、ある時手が止まったの。思わず採点しながら爆笑しちゃって、隣の研究室から○○先生が顔を覗かせるくらい笑った。
 その子はね、こう書いていたんだよ。“最澄は東大寺の階段にて受胎”ってね。いやあもうこの子は真面目な子だからこれは本当にそう記憶しちゃっていてそう書いたんだろうけど、僕は一度として最澄を女だなんて言っていないわけでね、こりゃもうどうしようかと思って、笑いどころとしては大いに笑ったから△上げたいところだけどそうも行かないじゃない。で、結局バッテンつけちゃった。でも僕は益々彼女のことを覚えちゃったわけ」

 教場中大爆笑ですよ。
 さらに、隣に座っていた夏目の友人が拍車をかけるようにこう言った。

 「でもさー階段で受胎だったからまだよかったけど、もし階段で受精だったらもっと問題だったと思う」

 先生を含めてまたもや大爆笑。
 結局この後、授業にならずに先生は目じりに涙を溜めながら自分の研究室に戻ってきました。くれぐれもテストにそんなことを書かないように、書いても笑うだけで点数は上げないからねと言い残して。
 腹筋割れるかと思うほど笑った…。

 さて、わからない人にはわからないだろうけども、つまりこれは最澄が東大寺の「戒壇」で「受戒」したという話を、その生徒が聞き間違えて最澄が東大寺の「階段」で「受胎」したなんてこんな事態になってしまったわけです。
 戒壇や受戒については興味があれば各々調べてもらうとして、ここでの言及は避けましょう。その解釈には色々とね、あるもんだから。
 「東大寺の階段で受胎」しちゃったらあんた、神聖なる寺内でヤッちゃったってことで、さらに「東大寺の階段で受精」なんてしようもんなら大問題ですよ。当時は女犯なんて僧籍剥奪の上さらし者にされるほどの重罪でしたし、もし相手が男だったらなんて考えたら授業どころじゃない…萌える。悶える。にやける。
 これだからやめらんないんだ文化論…!






 本日のお仕事
 ・基礎ゼミ台本印刷

 文化論が早々に終わったので空いているパソ室でガガガガってやっていたわけです。
 付き合ってもらっていた子は別のグループで、その子も自分ひとりに任されちゃっている感じがあったので互いに不満を口にする。
 そこに授業を終えた夏目のグループのひとり、いつも一緒に大学に行っているナミが姿を現した。

 「夏目がこんだけやってんのにあんたら他のはなんもせんの?」

 と付き合ってもらっていた子が言う。

 「夏目は偉いよねーこんだけ細かく作ってさ。紙とかだって自分で持ってきてやってるんだよー。ナミが週末カナコ(同じ学科の子)の家に泊まって楽しんでる間、夏目この作業ずっとひとりでやってたんだってー偉いよね」

 やけに人を庇う子なので、まあ別に間違った子と言われているわけじゃないし、さすがに印刷する紙の自己負担は辛かったので言わせておく。
 朝から金土日とカナコの家に泊まっていた折の楽しそうなエピソードをあちらこちらで話していたわけだが、それを聞いていた彼女が不快に思ったのでしょうねえ。夏目が眠いー眠いーもう週末は忙しくて泣きそうだった…とか言っていたから。
 したらナミの機嫌が悪くなる。

 「でもこーゆーのってみんなでやるよりひとりでやったほうが効率いいじゃん」

 と言われた。
 さすがにムカってきた。

 「そーだねー。でも別にそれやるのが夏目じゃなくっても全然問題なかったと思うけどね」

 未だに怒ると笑顔になるクセは抜けません。
 何食わぬ顔して揃えた台本を彼女に渡し、読んでおいてねってまた笑顔。
 半ば好きでやっている感はあったし、他の人がやらないから仕方なくやっていると言うのも確かだったので、誰のせいにすることもなくでも功績は認めてもらいたいなってちょっと我が侭なことを思っていたわけですが、こんなこと言われたらやる気だって失せようさ。
 夏目は本来自己顕示欲の強い人間なので、黙って誰かに搾取し続けられるとかね、犠牲になるとかそんなこと我慢できるわけがない。ひとより自分が有利になるように仕向けることも、利益を独占することも厭わない。
 だから犠牲心を装うこともできるし、利害損得関係なく人のために動いているように見せることもできます。人間みんなそんなもんじゃないのかしら、と思う。全ては自分のため、って思って生きてる。
 でもだからこそやればそのまま自分の利益につながることに関してはあんまり欲がない。
 人を介して自分の利益になることはそのまま人間関係の構築、そして社会での自分の位置づけの向上に繋がるから、努力しても損した気分にはならないけど、自分の利益にダイレクトに繋がるものって結局結果はわかりきっているからつまらない。
 だからいつもの調子で趣味と実益を兼ねて今回の基礎ゼミをこなしていたわけだけれど、「こいつが好きでひとりでやってる」と遠回しに受け取れるような発言を何もしていない人間に言われる筋合いは勿論ない。そして手伝おうともしなかったそいつにそんな台詞を吐かれて、馬鹿みたいにへらへらと「夏目が勝手にやっただけだからー」とそいつを庇うわけもない。
 夏目の性格の悪さはここまで書けばわかってもらえると思う。

 「これ、言いたいことあるなら言ってね。何しろひとりで短時間で作ったから、あっちこっちにボロがあると思うんだ。夜中とかにやってたからね、間違いもあると思うし。自分の担当箇所を調べ直して確認したほうがいざっていうとき恥かかないと思うよ

 笑顔。笑顔。笑顔。
 怒ると笑顔になる。
 そして付き合ってくれていた友人。

 「質疑応答の時間ってあるんだよねー」

 意地悪くそんなことを。
 そして機嫌の悪い夏目も笑顔で頷く。

 「夏目は自分で調べてやってたからある程度の質問になら答えられるけど」
 「あーこれ読むだけのひとはわかんないんだ」

 そして夏目は司会役には回らないで記録係をやるつもりですとも。
 いやはやむっかついたー。
 


 だから癒しは陰陽師。けけ。





 最近の心境
 ・メルが嬉しい

 携帯よりパソに長々としたメルが来たりするのが嬉しいわけです。
 携帯なんてお手軽だからね、いつだって送れるけども。
 夏目は携帯メルより先にパソメルに親しんで、その歴も長いもんだから、どうにもパソのほうが好きで愛着があるわけです。
 でもかといって携帯メルが嫌いなわけではないけども。
 パソメルのが特別って感じがして好きなだけ。
 最近、お姉ちゃんとパソメルしたり浅墓からパソメルきたりととにかくメルボックスを開くのが楽しみなのです。
 基礎ゼミやって大変だったり辛かったりとかしていても、メル来ていたりするだけで吹っ飛んじゃったりとかするわけで、単純なのです。


 嫌いなものが増える分だけ好きなものを増やす。
 それが夏目の戦う術。
 嫌いなものなんて放っておいても増えちゃって、一度嫌な気分になるとどんどん嫌いなものばかり増えていくから。
 意識して好きなものを再認識して、そして好きなものをできるだけ増やす。
 口で言って文章に書いて、自分に言い聞かせる。
 ちょっとした「好き」でもすんごい救われる。
 単純でいい。単純がいい。
 人間複雑だから単純がいい。
 夏目の性格はとてもわかりやすい。
 だからこれからも頑張れる。







 ではでは。
 本日はコレにて失礼。


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