危険域。 Master:(c)夏目

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2004年07月15日(木) ■
 轟音響かせ降り注ぐ嫌がらせのやう

 
 
 
 早朝四時
 夜勤明けの母からメールが届く。
 非常識な時間だなあオイ。

 「鍵忘れた。家から出るな」
 
 寝ぼけ眼でそれを読み、驚き返信。

 「阿呆なこと言うなや。夏目今日は老人ホームだっつの」

 以前から言っていただろうが。 
 すぐさま返事が戻る。

 「だってあたし今日出掛けなきゃいけないんだもん」

 だもんじゃねえよいい歳したのおばさんがよ。
 
 「知るか! 病院まで鍵届けるから待っとれ」

 一度学校に寄ってから老人ホームに向かうので、この時点ですでに約束の時間から遅れるだろうなあとは思ってはいた。
 
 「あたし今日帰るの遅くなるよ」

 「お前の鍵を届けてやるっつってんの!」

 「無理〜」

 実はグルグル渦巻きの絵文字が語尾についていたりする(怒
 
 「なんで!?」
 
 「車の中だから。で、あたしが車の鍵持ってるの」

 今日ほどコイツに殺意が湧いた日はない。
 これが嫌がらせ以外のなんだと言うのだろうか。
 そしてこの女、あろうことか全く以て罪悪感というものを感じている様子がない。
 仕方なしに、時間を待って泉田と文野にメールを送ることに。
 それでも早い早朝6時。

 これこれこういうことで、もしかしたら老人ホームに直接行くことになるかも知れない、ごめん。老人ホームに遅刻or行けないなんてことになろうものなら母の息の根止めて屍を詫びに持ってくから。
 
 取り敢えず、いつもなら母は夜勤明け12時前後に帰って来る。でもダッシュで帰って来れば11時前半くらいには帰って来るだろうなあと踏んでいたので、そんなに焦っていはいなかった。怒ってたけど。
 しかし。
 事態は12時前に届いた母のメールで急展開。

 「仕事終わらないよう。」

 …去ネ。
 目的地に最低でも13時30分には着きたかったのだけれど、最悪ギリギリの時間帯で計算しても地元駅を13時前に出なければ間に合わない。
 12時に母が仕事を終わらせて出てきたとして、家に着くのは運が良くて13時。
 それでは絶対に間に合わない。
 こうなりゃ仕方がないとばかりに、

 「そっち鍵持ってくから」

 と返信。
 
 「帰ってくるの遅いんだってば」

 との返事に、

 「ポストでも何処にでも隠して行け!」

 最近近所のガキの悪戯で、郵便物がなくなる(スカパーの番組表とか、携帯の明細とか)ことがしょっちゅうあったのでそれだけは避けたかったのだけれど、背に腹は変えられない。
 だって夏目、これでいて会長…(ボソボソ
 取り敢えず急いで仕度して、ネットで時刻表諸々調べて所要時間を計算して、バス停へ。
 しかし。
 ここでもまた思わぬ誤算が。

 「…バス来ない…」

 確かに昼間はそれほど本数が出ているわけではないのに、何故か来ない。
 おかしい。
 辺りを見回すと、荷物を抱えた小学生が。

 「夏休み前に荷物溜め込む子ってやっぱ多いなあ…あ?」

 そこで漸く自分の愚かさに気が付く。

 「…今日って、平日?」

 ここのところテスト休みで学校に行っていなかったため、夏目は今日をすっかり土曜日だと思い込んでいて、それで時刻表やら何やらを調べていたわけで…阿呆。
 慌てて停留所の時刻表を見るとバスが来るまであと10分。
 平日の昼間なんて本数1時間に3本しかない…。
 大いに焦りましたとも。
 そして。
 そこにおかしな声が。

 「マイドー冷タイ飲物ドウデッカ?」

 え?
 再度。

 「マイドー冷タイ飲物ドウデッカ?」

 え?
 三度目。

 「マイドー冷タイ飲物ドウデッカ?」

 え?
 自販機が…喋った。
 じ、じじじ自販機が喋ってるよ…ッ!
 うわあ心癒される…かあッ!!
 そんなことない。
 そんなことない。
 なんでこの関東圏内で関西弁で喋る自販機と遭遇しなければならんのだろうか。
 しかも17年と6ヶ月と15日この地域で生活してきて、この自販機が喋ったのはじめて聞いたわ。確か小学校くらいのときに設置されていた気がしたのだけれど、その頃から喋っていたのだろうか? いいえ。いいえ。そんなものは耳にしたことないし噂にだって聞かないわ。
 っていうか、

 「あったかいもんは売ってないんかいオンドリャ!」

 問題はそこじゃない。


 ともかく。
 漸く来たバスに乗り込んだ夏目は渋滞にはまることもなく地元にある高校の制服を着た大量の生徒の間でとても肩身の狭い思いをしながら駅に到着。
 母の病院がある駅は各駅停車。
 15分とかそれよりちょっととかかかる。
 漸く駅に着いたかと思えば、母の病院まで行く無料バスが当分来ない…歩けと。歩けというのかこの距離を。
 確かに母はいつも歩いて行っているだろうけれどね、夏目は貧弱で軟弱で運動とか根性とか努力とか汗水とかいう言葉が嫌いな人種なのよ。何が悲しくてこの暑い日差しの中、まるで迷路のような民家の間を縫うようにしてあんな辺鄙なところに行かねばならんのさ。お前が来いよ、お前が!! 母も母なら母が勤める病院も病院かよ! と八つ当たりもいいとこなことを思ってみる。
 でも取り敢えず歩くしかないらしいので…歩いたさ。

 眼科に通っていた頃は祖母宅に用がない限り歩いて病院になんて行かなかったのになあ。

 と思って、はっとした。
 母の勤め先に行く道すがら、祖母と叔父が暮らすマンションがある。
 そうか。なるほど。祖母に預けていけばいいんじゃないか。名案だ自分。
 喜び勇んで軽やかに普段なら敬遠する祖母の家のチャイムを鳴らす。
 鳴らす。
 鳴らす。
 鳴らす。
 …夏目の名案と軽やかな気分は一気に砕かれました。
 そうだよ。叔父が平日昼間に家にいるなんてことはないに決まっているし、祖母だって仕事しているんだよ、早々タイミングよく家にいるわけないじゃん。もっとよく考えろよ自分。
 萎えた気分で再び歩き出す。
 砂利道を進み、チャリと追突しそうになり、猫に話しかけてみたり、漸く病院の裏側が見えてきたときに再び思う。

 …あの人何処にいるんだろう…。

 しょっちゅうこの病院に出入りしていた頃とは所属が変わっているはずで、のみならず、最近新しい棟ができたばかりなのでちょっと…勝手が違う。
 休憩所に顔を出して運良く知り合いが見つかれば楽だけど、受付ロビーとかに行って呼びつけるにもそれなりによくある苗字だから何処勤務なのかわからんとどうしようもないしなあ。
 でも取り敢えず、正面から堂々と入ってみた。

 「うーん」

 内装が随分と変わっている。
 新棟ができてから一度も来ていないから当たり前なのだけれど、かなり綺麗になっているなあと驚き。
 
 「あ、嶺」

 取り敢えず受付嬢にでも相談してみようかなフルネームで呼び出せばわかるだろうしと思っていたところに後ろから声をかけられる。

 「…ゲ、センパ…」

 通称“先輩”の臨床心理士がそこにいる。
 
 「なんだ、何し来たんだ?」

 病院に治療以外に何をしに来るというのだろうか。
 否、確かに夏目は治療に来たわけではないけれど、前まではここの眼科に通っていたわけだし、何しに来たとか…ないだろうよねえあんた。勿論そんなこと言えませんが。

 「母ってどこのひと?」

 日本生まれのはずだけれど。
 かなり阿呆な言い方をしたと思っても後の祭りだけれど、しかし相手はそんなん全く気にかけなかった。

 「なんだ、母ちゃん探しに来たのか。どうかしたのか?」

 ここで漸く病院関係者らしい気遣いを見せる。
 何故母の名前でそれを言うのだろう。そんなに夏目単独では病院と縁遠そうに見えるのか。自慢にはならんが持病の数なら家族一だぞこれでいて。兄は生傷絶えないけどね。
 細かい部分ははしょって説明。

 「ふうん。学校帰りか? なんかお前も制服着てると女子高生みたいだな」

 制服着てなくても女子高生なんですけども。
 返す返すも失礼な男だ。否、絶対にそんなこと口が裂けても言えないけれど。この男、とにもかくにも悪戯好きなのだ。そんなことを言おうものなら何をされるかわかったもんじゃ…。

 「連れてってやるよ。俺、今休憩中なんだ〜」

 否、場所さえ教えてくれれば勝手に行くし。
 いえ、勝手に行くので場所だけ教えて下さい。
 頼むから。頼むから。
 休憩なら休めよ。どうせ忙しいんだろお前らは。
 あまり大きな病院ではないので、職員も多くはない。ので、忙しい。だからこそ夜勤明けなのにも関わらず母はこんな時間まで仕事をしているわけで…否、きっとあいつが無能なんだろう。
 
 「今日ならアダチもいるぞ〜イイボシも」

 いらないよ。
 いらないよ。
 そんな話はいらないよ。
 ってかそんなことを言い出したってことは、さてはお前、そんなに夏目の制服姿を周囲に見せたいのか。恥をかかせたいのか。
 こら待て、おっさん。

 「今時間なら多分ステーションにいるだろうなあ」

 ひとり呟き進む男。
 ちょっと待って、ステーションってナースステーションのことでしょう!? ってことはそこが本拠地で、つまりは一杯知り合いが…ッ。
 
 「先輩、ちょお、いい、そんな目立つとこ行かなくていいッ」

 「嫌だね。嶺の制服姿なんてめったに見られないじゃねえか。ケッケッケ。オオツカはいねえけど、キョウコならいるしなあ」

 でもキョウコちゃんは小児科保育士だからこっちの病棟にはいないはず。

 「新棟ができてからこっちに保育所移ったんだよ」

 経営者出て来オオい!!!
 嫌がらせなのか。
 嫌がらせなのか。
 母といい先輩といい、病院といい。
 そうかこれは病院ぐるみの嫌がらせなのか。
 夏目が何をしたっていうんだよう。
 
 「お、アダチ発見〜。アダチ〜、フミエさんは?」

 「フミエさんなら書き物してるよ」

 「女子高生が来たぜ」

 「え? あ、嶺ちゃん! 制服!」

 どうしてそこまで制服に固執するんだお前ら!!
 そんなに普段の夏目は女子高生に見えないというのか!
 これでいて現役高校3年生、しかも生徒会長様で青春バリバリ満喫中なんだっつ!!(青春って何…
 そして間の悪いことにキョウコちゃんが来ていて、

 「あ〜嶺、制服!!」

 お前もかよ!
 すでに突っ込むのも嫌…。
 ってか病院内ではお静かに…。
 キョウコちゃんは一応、夏目の高校の先輩に当たるわけですけれどキョウコちゃんが卒業してから制服が大幅に変わってしまったもので、見るとはしゃぐ。ってかこの制服が届いたとき、着ていたもの彼女。敢えてキョウコちゃんの年齢は伏せるけれど(汗;
 
 「お、おばちゃんは…」

 どっと疲れた。
 現役女子高生よりパワーあふれる20代。
 しかも大体が結婚してからまだ3年とか。
 あだっちゃんとキョウコちゃんは何気妊娠中だし、先輩ンとこは去年生まれたばかりだし…。
 人生楽しいときでしょうよ。
 普通は女子高生のほうがテンション高くて元気なものでしょうが、何分夏目はインドア人間で元気とか精力的とかそんな言葉が似つかわしくない人種なので…。
 そして結局、時計を見れば。

 …はあ(溜息
 
 13時30分。
 絶対に間に合わない。
 ここから鍵投げつけて運良くバスに乗れても駅に着くまで20分。そこから目的地まで途中で急行に乗り換えて乗り継ぎ上手く行っても1時間弱。
 …終わってるよ。
 
 「嶺? わざわざサンキュ」

 うわあ白衣のナースだあ…なんて思うかこのクソババアッ!!
 白衣の天使とかいてたまるかコラ。
 お前ら皆悪魔に見えるよッ!!

 「間に合う?」
 
 「間に合うわけあるか」

 「どうすんの?」

 「どうすんのもこうすんのもあるかボケ」

 「連絡しなきゃね」

 「お前に言われんでもするわ阿呆。一体誰のせいだと…ッ」

 文句を言いながらも泉田にメール。
 因みにステーション内だと携帯使ってよかったり。
 否、他はどうだか知らないけれどね。
 取り敢えずこのステーションのある階には電波でやられるような機械もなければそれで危うい人もいないのだと。下の階にいるらしい。
 そうして機嫌急降下の夏目の目が据わる。
 その場で踵を返そうとした夏目を周囲が引き止める。

 「何か用事あったのか? 取り敢えずなんか飲んでけよタダだぞタダ」

 っつか持ち寄りだから誰かのものなのだろうけれど。
 お菓子類とかティパックとかはもう自由なんだけど。
 
 「あたしまだ仕事終わってないから片付けてくるわ」

 さっさと仕事を再開する。
 大体、夜勤ってのは朝方に申し送りで引き継ぎをやって早々に帰るものだろう。10時には確実に勤務時間終了しているはずだぞ。なんだってこんな昼過ぎまで仕事やってんだお前。そんなに仕事が遅いんか。
 小奇麗だけれど狭い休憩室に勝手行って、勝手に冷蔵庫開けて、勝手にレモンティ注いで、勝手に飲む。
 休憩中だという先輩ががさごそとお菓子をあさる。
 うん。ってか先輩、ここの人じゃないでしょ。なんでさも当たり前の如くお菓子開けてんのあんた。
 
 「ほら食え。最近ごたごたしてて忙しいんだよ」

 フォローか。
 母のフォローなのか。
 仕事が忙しいことと夏目が老人ホーム行けなかったことは関係ないんだぞ。
 基はと言えば母が鍵を車の中に忘れたりとかしたのがいけないのであって、それだって昨日の内にわかっていりゃあ対処の仕様もあっただろうに。
 どう考えたって母のミスだろう。
 そして当の本人は全く以て罪悪感を感じていない。高校の生徒会で行く老人ホーム訪問なんてそれを本職にしているお前にしてみりゃそりゃ遊びに見えるかも知れないけどこっちはこっちで真剣なんだっつの。フザケンナ。
 
 「…眠い」

 「仮眠ベッド空いてるゾ」

 早朝4時に起こされそこれからずっと起きててあれこれ気をもんだりしていたので精神的に疲れて物凄い睡魔が…。昨日寝たのだってそんなに早いわけじゃない。考えてみれば3時間とかしか寝てないじゃないか。

 「寝る…」

 制服のままごそごそとベッドに潜り込む。
 先輩は持っていたピッチに呼び出しがかかり、仕事に戻って行く。普段はおちゃらけているけれどこうして見るとちゃんと仕事している人なんだなあと改めて実感。
 そしてそこに諸悪の根源登場。

 「寝るの? 鍵」

 当然のように手を差し出す女にムカ。
 でも鍵を指差して取らせる。
 
 「夏目は寝てから帰る。帰りたいならさっさと帰れば? でも夏目が帰るまで家にいなさいよね」

 仕返しとばかりにそう言ってさっさと横になる。
 夜勤明けで眠いし疲れているのはおばちゃんなのかも知れないけれど、このあと出かける(ライブですとも)元気があるそうですから。
 困惑気味の母。
 ザマミロ。
 そして必死になって一緒に帰ろうと言ってくる。

 「ほら、美味しいレアチーズケーキあるよ。食べよ」

 夏目はチーズ嫌いです。
 
 
 夕方、家に帰って再び転寝。
 轟音で目が覚める。
 落雷…ものっそい落雷…まるでビルでも崩れたかのような轟音が絶え間なく響く。
 空が光る光る。
 そしてこの天気で屋外ライブは中止。母は失意の中、部屋で寝ているわけでして。

 だったら夏目母に鍵さっさと渡して行けたのに…。

 なんだかとってもやるせいない一日でした。
 ええ。そりゃあもうとんでもなく。



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 ではでは。
 本日はこれにて失礼。

 今日は本当に生徒会のメンバーに迷惑をかけて…申し訳なかったです。


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