パンドラの箱
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「もう戻らないと」
そう言って去って行く人を、見送る。
その人には戻る場所があるのだ。 帰るべき場所。 その場所は決して私の入ることの出来ない場所。 そして、決して私と交わることのない場所。
悲しかったのだ。 そして、許せなかったのだ。 思い出の品を分かち合うことすら出来ず。 あまつさえ、全て私の手に残し、帰るべき場所へと戻ったその人を。
「おやすみ」
そう言って、私との世界を隔絶し、相見えない世界を創出するその人を。 狂おしいほど許せなかったのだ。
「いったん戻るね」
そう言って去って行く人を、見送る。
その人の戻るべき場所は 帰るべき場所ではない。 その場所は決して私が入ることが出来ない場所。 けれど、きっと私と繋がっている場所。
嬉しいのだ。 そして、愛おしく想う。 共有することが出来ない時間ですら繋がっている、そのことが。 そしてただ、深い愛情を一心に注いでくれるその人を。
「おやすみ」
そのひと言で私の元へと戻ってくるその人を。 心から狂おしいまでに愛おしいのだ。
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