パンドラの箱
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ある雨の夜、ネコを拾った。
ネコ、と言っても少女から大人になりかかった女だ。
雨の中傘も差さずにぼんやりとしているその様が、まるで捨てネコのようで、
なんとなく気になって、つい声をかけてしまったのだが、どうするつもりもなく、 人懐っこい笑みを向けられ、そのまま家に連れて帰った。
ネコは黙ってついてきて、おとなしく部屋の片隅に座った。
どうしたものか、と思ったが、ネコの方から体を摺り寄せてきた。
体が冷たく冷え切っている。
風呂を沸かし、一緒に入ることにした。
濡れた服を脱ぐと、しなやかな体はまだ幼さを残しており、一体いくつなのか、 だいたいこんな雨降りの夜に傘も差さずにぼんやりとしていたのか、少し、 おかしいと思ったが何も聞かなかった。
ネコは全く声を発しなかったが、俺のほうに両手を伸ばし、一緒に入ろうと誘っ ているようだった。
ちょっと戸惑ったが、服を脱ぎ、風呂に入った。
抱きかかえると壊れてしまいそうな、細い体をそっと包むように抱きかかえると、 ネコは安心しきった顔で俺の胸に顔をうずめる。
俺は淡々とネコの体を洗った。
その日から、ネコは俺の部屋に住み着いた。
ネコはネコ以上でも以下でもなく、不自然な始まりなのに、ごく自然に俺の生活 の一部となってしまった。
疲れて帰ると部屋に明かりがついていて、ドアをあけるとネコが待っている。
疲れていて、つい、邪険に扱っても、ネコはするりと身をかわし、気がつくと俺 の腕の中でまどろんでいる。
ネコは俺に何かを要求するでもなく、ただ、俺の部屋にいられれば良いようだっ た。俺もネコに何かを要求しようとは思わない。
名前も年もどこから来たのかも知ろうとしなかったし、ネコ自身も語ろうとはし なかった。
夏も終わりのある夜、激しい雷が鳴った。
落雷したのか、地響きがして、停電した。
ネコはおびえた様子で薄暗い部屋の片隅にうずくまっており、それを見た俺はは じめてネコに欲情した。
俺はネコを抱き寄せるとそっとキスをした。
ネコは何の抵抗もなく、俺に身を任せた。
時折光る雷にネコの裸体が映し出され、俺は無我夢中でネコの体をむさぼった。
ネコは初めて女の声で甘い喘ぎを漏らした。
その日から俺は家に帰るとネコを抱くようになった。
従順なネコに俺はいつしか加虐心を抱くようになり、手足を縛ったり、命令して 従わせたり、少しでも嫌がる素振りを見せたらお仕置きと称しては暴力を振 るったりするようになっていった。
それでもネコは俺が帰ると嬉しそうに擦り寄って来る。
そんな様が余計に俺をいらだたせ、俺はますますネコを手荒に扱うようになった。
ある夜、いつものようにネコを抱いていて、ネコが何度目かに達するのを見たと き、俺は知らず知らずのうちにネコの首をしめていた。
恍惚とした表情が、苦悶に変わっていく様を見て、俺はなぜだか興奮し、ますま す手に力をこめていった。
「・・・め・・・て・・・」
言葉らしい言葉も発したことのないネコの口から漏れた言葉の意味を理解するの に時間がかかった。
「オネガ・・・やめ・・・て・・・」
言葉の意味を理解して、俺の体が反応するまでに、ネコは簡単に逝ってしまった。
今でも俺は分からない。
ネコは何で俺のところに来たんだろう。
俺と暮らしていた数ヶ月、ネコは幸せだったんだろうか。
俺はどうしてあんなことをしてしまったんだろう。
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