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| 2006年05月04日(木) 石鹸カタカタ。(後) |
| 温泉に入ったのが午前11時。そして出てきたのが午後0時半。僕は1時間半も浮世の辛さも愛する妻の存在も忘れ、温泉に浸っていたということになる。妻はあの時こう言った。「先に出て、そこで何か食べてるからね」確かにそう言った。しかし食事処に妻の姿はない。 もしかすると整体コーナーにいるかもしれない。足つぼコーナーかも。垢すりコーナーは? 僕は長い髪を芯まで冷やして小さな石鹸カタカタ鳴らしながら妻を探し続けた。妊娠中の身、そう長湯ができるはずがない。ああ、僕は長く浸りすぎてしまった。ああ、温泉ちょー気持ちよかった。まだ浸っていたかったけど、僕は妻を愛しているから。でもその妻の姿がない。 もしかしたら湯の中でのぼせてしまって救急車で運ばれてしまったのかも。しかし運ばれる時に僕の存在を救急隊員に伝えるはずだ。しかし僕は何も知らないということはもしかして僕の存在すら伝えられない状態だったのかもしれない。ああ、妊娠中に温泉なんて提案しなければよかった。でも妊娠中は温泉を控えろなんてどこにも書いてなかったような気がする。ああ、泣きたい。ああ、温泉ちょー気持ちよかった。でも妻がいないので余韻を楽しむことができない。ああ、コーヒー牛乳買おう。 と、喫煙コーナーでコーヒー牛乳を飲みながらタバコを吸いながら妻の身を案じながら新聞を読むというワケのわからない時間を30分ほど過ごし、本当に洒落にならない状況になっているのかもしれない。妻は怒ってしまい先に帰ってしまったのかもしれない。車の鍵、妻が持ってるし。あの係の人にまだ妻が温泉にいないか頼んでみようかしら。ああ、逢いたい。妻の姿が見たい。 そして2本目のコーヒーを飲み干したときに、「どうしたの? 顔青いよ」と、髪の毛を拭きながらいとしの妻が現れた。「早かったね。いつ出たの?」「君と5分も違わないよ」と、平然を装ったけれど、入浴後にドライヤーを使わない僕の髪はすっかり乾いているし、傍らにはコーヒー牛乳が2本置いてある。5分で髪の毛が乾いて、コーヒー牛乳を2本も飲み干すことができるのは、嘘を吐いている僕しかできない。本当は1時間以上待ったのだ。 「どうしたの? まだ顔青いよ」食事処で昼食を食べながら笑う妻を見て、ほんとに良かった。ほんとに生きてて良かったと、一人温泉サバイバル。 |
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