2005年11月30日(水)  私の枯葉 第3節。
 
こんばんは。この日記書いてる男の恋人です。交際2年とちょっとです。まだ学生です。コンピュータの専門学生です。彼の愛の囁きにすごく弱いけどコンピュータには滅法強いです。朝から晩までコンピュータと格闘しております。コンピュータのことなら何でもござれでございます。
 
私の彼は文学ばかりして自己陶酔に拘泥しながら日々を送っておりますので、コンピュータに関してはずぶの素人です。門外漢とうしろうです。「だからそこで右クリックするのよ!」と、私がちょっと怒った口調で言うと、「あ、あれ、右ってどっちだっけ?」と、こんなレベルでパニックになる馬鹿な男です。だから彼がコンピュータに向かっている時は、様々な場面で私がレクチャーしなくてはいけないのです。私なしでは生きていけない憐れな男なのです。短足だし。
 
先日、そんな彼が泣きそうな声で電話してきました。彼が泣きそうな声で電話をしてきた時は、コンピュータで理解不能な事態に遭遇してパニックに陥ったか糞をもらしたかのどちらかに決まっています。
 
「パソコンのインターネットのホームページのサイトのページを印刷したいんだけど、文字と図形だけ印刷されて背景が印刷できないんだ。助けておくれよ。僕ぁ背景も印刷したいんだ。うぇ、うぇ、ひっく」
 
「パソコンのインターネットのホームページのサイト」という馬鹿な言いまわしに、コンピュータ専門家の私はイライラしてしまいますが、ろくにパソコンも操れないくせに背景まで印刷したいという高望み。叶うわけがありません。だいたい、サイトというのはおおむねHTMLで構成されていて、印刷する時は背景を必然的に消すように設定されているのです。私専門だから知ってるんです。学校で習ったんです。サイトの背景は印刷できないって。と、言うことを彼に教えてあげました。彼が抱いているパソコンへの万能感というものを少し訂正させる意味を込めて。コンピュータだからって何でもできるわけじゃない。なのに彼ときたら!
 
「えとね、実はね、IEのメニューの『ツール』→『インターネットオプション』→『詳細設定』タブをクリックしてね、 『設定』ってやつの『印刷』の『背景の色とイメージを印刷する』にチェックを入れてOKボタンをクリックすると背景も印刷できるんだよ。へへへ。サイトはね、背景もね……印刷できるんだよ!」
 
私のプライドはずたずたに引き裂かれました。彼は私の答えを予想して、彼なりに調べてサイトの背景を印刷する方法を取得していたのです。なんというひどい仕打ち。私が何をしたというのでしょうか。っていうかサイトの背景って印刷できたのですね。私初めて知りました。迂闊でした。それがまた悔しくて涙が止まりませんでした。
 
「僕が何も知らないと、そして君が何もかも知っていると思ったら……大間違いだよ!」
 
何度も言いますが私が何をしたというのでしょうか。齢が八つも離れている恋人を陥れて何が楽しいのでしょうか。悔しくて悔しくて、そういう粋な悪戯をするところが彼らしくて好きなようで嫌いなようで、やっぱり好きで好きで本当は大嫌いです。もうすぐ私達が知り合った十二月が訪れようとしています。愛する二人、今夜も二人でせめぎ合い。静かな夜です。ではまた。
 

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