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| 2005年09月14日(水) アイツとボクとワキゲとキミと(前) |
| 君は僕の前で鼻をほじる。鼻の下を伸ばし、ウィンクしたような表情を浮かべているのは、指で鼻の中を深追いしているから。 君は僕の前で腋毛を抜く。眉間にしわを寄せ、ウィンクしたような表情を浮かべているのは、微小な疼痛に耐えているから。 君は僕の前で足の爪を切る。鼻の穴を開き、ウィンクしたような表情を浮かべているのは、切った爪の匂いをこっそり嗅いでいるから。 鼻糞を、腋毛を、足の爪を、時に我が子を見るような愛おしい眼差しで見つめ、時に研究対象を見るような厳しい眼差しで仔細に眺める。そして決まって、それらと同じ眼差しを僕に向け、肩をすぼめ、恥ずかしそうな、そして秘密の共有を迫るようなウィンクをする。 僕は知っている。アイツの前では僕といる時とは比較にならないくらい、女らしく振舞っていることを。料理好きをアピールしたり、ブランドのバッグをぶら提げたり、百万人が泣いた感動映画で漏れなく泣いていることを。 付き合いが長くなると、羞恥心が減って秘密が増える。僕は知っている。アイツの前ではまだ羞恥心から生まれる美しさを放っているということを。 君は鼻をかむと必ずティッシュの中身を確認する。そのお馬鹿な行動は、鼻水と一緒におそらく脳味噌が流れ出ているせいだと僕は思っている。 君はベッドの上のお気に入りの黄色いクマぬいぐるみに話し掛ける。好きよ、愛してる、離れないでね。絶対離れないでね、浮気したら許さないからね、好きよ、大好き。憐れなクマのぬいぐるみは、君が眠りに就くまで、呪詛のような愛の言葉を表情一つ崩さず、延々と浴び続ける。 僕は知っている。アイツの前では僕には見せない笑顔を浮かべていることを。アイツの顔を見ただけで頬が緩み、名前を呼ばれただけで微笑んで、下らないギャグに大声で笑っていることを。 君と僕は、あまりにも長くいすぎてしまって、日常の中に笑顔が埋没してしまった。君と僕の間には、笑顔も言葉も、大した意味を持たなくなってしまった。そして笑顔が埋没された二人の間に、倦怠の黒い花が芽生える。 |
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