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| 2005年03月28日(月) 絶対負けられない。 |
| 雨の新宿歌舞伎町。先程から彼女が一言も口を聞いてくれないのは自業自得であって俺の所為じゃねぇ。 「ねぇ、次どこ行く?」 「……」 「ねぇ、ゲーセンにでも行こうか」 「……」 「お茶する?」 「……」 「もう帰る?」 「帰る」 「あそ、じゃあ駅に行こう」 と、言うと立ち止まって駅へ向かおうとしない。駄々をこねる子供のように立ち止まっている。雨の新宿歌舞伎町。僕が傘を持っていないので、彼女が立ち止まると僕も立ち止まらないわけにはいかない。 「ビリヤード行こうよ」 2時間程前、そう言い出したのは彼女なのだ。外は雨。東京のいたる所に存在するデートスポットにも、買い物にも行きたくない。なんとなく東京駅で待ち合わせて、なんとなく新宿に来てしまった。「今度は私が絶対勝つんだから!」目を輝かせてビリヤードのキューを持つ仕草をする彼女。面白いじゃないか。やってやろうじゃないかと歌舞伎町のビルの4階にあるきったねぇビリヤード場。 そこのビリヤード場はダーツをする場所もあったので、「ビリヤード終わったらダーツもしようね」と、彼女は意気揚揚と。1回戦、ナインボールで勝負し圧勝。「フマー!」と、肩に噛みついてくる彼女を後目に2回戦。やはりナインボールにて圧勝。そうだね。その辺りからだろうね。彼女の口数が少なくなっていったのは。 3回戦もナインボール。彼女のプライドを尊重して、わざと負けようと思って、「次はわざと負けるからね」とわざわざ彼女に口頭で伝えると、彼女の自尊心はひどく傷つき、表情が硬くなり、わざと負けようと思って、手を抜いたにも関わらず僕の方が勝ってしまい、彼女の表情から優しさとか意思とか親孝行とかボランティアの精神とか座右の銘とか納税の義務とか、ありとあらゆるものが失われ、彼女はただの素の彼女になってしまった。 「私はね、今まで指で数えるくらいしかビリヤードやったことないのよ。それをなによ。今まで何年もやってきた人がムキになっちゃって馬鹿じゃないの。あなたが勝つのって決まってるじゃない阿呆。短足。次勝ったら絶対別れる」 と、怒りをあらわにして申す。可愛いなァ。自分からビリヤードして高らかに勝利を宣言したというのに。それをば今の状況は何なんだ。僕がボールを入れようとしたら、ビリヤードのキューで尻をつついたり叩いたりと妨害ばかりして、勝つためには手段を選ばない悪魔将軍のような勝負の姿勢。キン肉マンのね。 最後の勝負はローテーションというルールで。彼女曰く、ナインボールというルールは自分に適さないらしい。硬い表情と格好でキューを持ち、もはや一言も話さなくなった彼女の悲壮感漂う背中には、「絶対負けられない戦いが、そこにはある」というどっかで聞いたようなフレーズが書いてあったよ。 |
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